タコ殴り戦隊ボコレンジャー タコ殴り戦隊ボコレンジャー


ナレーション
 「西暦200X年。無限のエネルギーを生み出す物質『ボコリウム』を発見した
  土月枡博士は、その平和利用の為の研究を日夜続けていた。
  しかし、異次元からの侵略者シバイタル帝国の出現に、博士は戦いを決意し、
  ボコリウムの力を3人の若者に託したのであった。彼らの名は…………」


怪人 「ひょーっひょっひょ。後は装置のスイッチを入れれば、計画は成功だ」

美奈 「そうはさせません!」

怪人 「やや、何者?」

太郎 「我ら正義の戦士!」

駆  「ボコレンジャー!」

怪人 「ぬう、ボコレンジャー!」

美奈 「ブルー、イエロー、いきますよ。トライアングル・フォーメーション!」

太郎 「いきなり?」

駆  「いいじゃん、さっさと倒して帰ろうよ。オレ、見たいテレビあんのよ」

美奈 「ボコレンジャー!」

太郎・駆「タコ殴りストーム!」

ナレーション
 「ボコレンジャータコ殴りストームとは、『トライアングル・フォーメーション』の合図で敵を3方向から囲み、
  よってたかって殴りまくる、ボコレンジャー最大の必殺技だ」

SE(ボコボコ殴る音)

怪人 「ひょ〜〜〜〜〜〜っ!」

SE(爆発音)

美奈 「成敗です!」

駆  「さ、帰ろう帰ろう。良かったぁ録画セットするの忘れてたんだよねぇ」

太郎 「こんなやり方でいいのかなぁ……」


ナレーション
 「阪神岩屋駅から徒歩15分、ボコレンジャー基地こと土月枡家は一見普通の民家だが、
  その内部は科学技術の粋を尽くして作られている。その技術力はご近所の人たちからも頼りにされているほどである。
  下宿している大学生、奈具津太郎と勝込駆、そして博士の一人娘美奈の3人は、ご近所の頼まれ事などを引き受けつつ、
  常にシバイタル帝国の動向に目を光らせているのである」

美奈 「ただいま〜」

適男 「む、帰ってきたか」

美奈 「お父さん、ただ今戻りました」

適男 「こらこら、基地施設にいる時は『博士』と呼ぶように言っているだろう?」

美奈 「あ、ごめんなさい。ただ今戻りました、博士」

適男 「ウム、ご苦労だったね」

太郎 「基地施設って、ここは居間じゃないですか」

適男 「奈具津君、いつも言っているだろう? 朝の8時から夜の7時まで、ここは作戦会議室になるのだと。
    今は夕方の5時前だから、まだ居間ではない」

太郎 「そんなややこしい事しなくても、別の部屋に作戦会議室を作れば良いじゃないですか」

適男 「作戦会議室など、そんな頻繁に使うモノでもなし、わざわざ別の部屋にしなくとも、兼用にした方が管理もラクじゃないか」

太郎 「そんないい加減な……」

駆  「まあまあ太郎ちゃん。あんまり細かい事は気にしなくていいんじゃない?」

適男 「その通り。もっと物事は柔らかく考えないといけないよ?」

太郎 「は、はぁ…………」

適男 「さて、それではミーティングを始めようか。さあ、二人とも座りたまえ。美奈、人数分のお茶を」

美奈 「ハイ、わかりました」

SE(ポットからお湯が出る音)

美奈 「太郎さん、駆さん、どうぞ。ハイ、博士も」

駆  「しかし、番茶が似合う作戦会議室なんて、ウチぐらいだろうねぇ」

太郎 「和室だからな…………」

適男 「では、始めよう。え〜視聴者…もとい、一般市民の皆様から、応援のメッセージが届いています。まずは神戸市東灘区の、
    ペンネーム『ジェットイカロス』さんからのメッセージです。
    『ボコレンジャーの皆様、いつもご苦労様です。こういう事を言うのもどうかと思ったのですが、やはり気になるので言わせてください。
    あの必殺技ですが、いかに敵が怪人とはいえ、3人がかりで袋叩きにするのはどうかと思います。
    見た目に卑怯ですし、子供の教育上良くないと思います。一応は正義の味方なのですから、それに相応しい戦い方をしてもらいたいです』」

適男 「…………」

美奈 「…………」

太郎 「…………」

駆  「…………」

SE(紙をビリビリに破る音)

適男 「それでは、次のメッセージを…………」

太郎 「何事も無かったように進行しないでください!」

適男 「君たち、こんな意見、気にしなくていいぞ」

太郎 「気にしますよ!」

美奈 「わたしは気にしませんよ」

駆  「オレも別に気にならないなぁ」

太郎 「気にしろよ! やっぱりあの戦い方には問題ありますよ、博士」

適男 「何を甘っちょろい事を言っているのかね! 君たちが負けたら地球はオシマイ
    なんだぞ! 大体、こっちが3人がかりだと判っているクセに、怪人を一人しか出してこないのは向こうの落ち度だ。
    それにだね、普通の戦隊なら5人がかりなのに、君たちは3人だ。褒められこそすれ、卑怯者呼ばわりされる筋合いは無い!
    奈具津君、君たちがボコレンジャーになってどれぐらい経つ?」

太郎 「は? …………そろそろ2年ですが」

適男 「そう、2年だ。普通の戦隊なら、とっくの昔に6人目の戦士が現れ、2号ロボが出てるというのに、君たちは6人目どころか3人で戦い続け、
    2号ロボはおろか、1号ロボすら使っていない。ここまでストイックな戦隊は君たちぐらいだ。まったくもって卑怯ではないよ」
駆  「まあ、1号ロボを使わないのは、敵が巨大化しないからですけどね」

適男 「だから気にしなくても良いのだ! まだ何か言いたい事があるかね?」

太郎 「(疲れきったように)いえ、もういいです…………」

適男 「それでは次にいこうか。大阪市のペンネーム『重甲機殿・大圧殺』さん。
    『小学生レンジャー、ボコレッドちゃん萌え〜。今度同人誌出しま〜す。レッドちゃんに殴られたい、ハァハァ』」

適男 「…………」

美奈 「…………」

太郎 「…………」

駆  「…………」

適男 「……え〜、実に病んだお手紙ですね。まあ、大きなお友達にも注目されているという事で」

美奈 「ちょっとその手紙見せてください」

 SE(紙をガサガサ触る)

美奈 「…………今度、このご近所に敵を誘き出して戦いましょうか。博士、ボコレンジャーロボ使ってもいいですよね?」

太郎 「美奈ちゃん、物凄く腹黒い事考えてない?」

適男 「なお、奈具津君と勝込君宛てにも、若い女性を中心に、同様の手紙が多数届いております。では次。尼崎市のペンネーム『マックスマグマ』さん。
    『皆さん、こんにちは。いつも応援しています。ところで噂で聞いたのですが、ボコレッドさんが小学生というのは本当なんでしょうか?
    もし本当なら、あまり友達と遊んだり出来なさそうでかわいそうです。早く戦いが終わると良いですね。これからも応援し続けます。頑張って』」

駆  「おお、まとも応援メッセージだ」

美奈 「何だか照れますね」

太郎 「でも、その人の言う通りですよ。美奈ちゃんはまだ小学生なのに、満足に友達と遊ぶ事も出来ないなんてかわいそうです」

適男 「うむ……。私も科学者である以前に一人の父親。娘には申し訳ないと思っている。
    しかし、生まれた時からボコリウムエネルギーと共にある美奈以上に、
    ボコレンジャーとしての適性を持っている人間はいないのだ」

美奈 「博士、太郎さん、私なら平気です。お友達と遊ぶのは、平和になってからでも出来ます。
    今はシバイタル帝国の魔の手から世界を救う事が先決です」

太郎 「美奈ちゃん……」

駆  「うんうん、立派な心がけだなぁ」

美奈 「それに、合法的に誰かをブン殴れる機会なんて、そうそうないですよ」

適男 「うむ、その通り」

太郎 「アンタ、己が娘にどんな教育してるんだよ…………」

適男 「さて、その他の応援メッセージについては、後で各自読んでくれたまえ。
    それでは次の議題に行こうか。実は敵の基地がある場所が判った」

太郎 「本当ですか?」

駆  「だったら!」

適男 「うむ、こちらから乗り込んで、2年に亘る戦いにピリオドを打つ事が出来る」

太郎 「で、シバイタルのヤツらは、一体どこに潜んでいるんですか?」

適男 「うむ、それは…………」
美奈 「
太郎  それは!?
駆         」

適男 「阪神大石駅から南へ約15分、沢の鶴資料館の近くだそうだ」

太郎 「メチャクチャ近所じゃないですか!」

駆  「何で今まで気付かなかったんです?」

適男 「近所と言っても、電車で二駅だろう? 自分の住んでいる町の最寄り駅以外の場所なんて、意外と知らないモノだよ。
    ましてやすぐ隣ならまだしも、駅を一つ挟んでいるのだよ? それは判らないさ」

太郎 「その気があれば、チャリどころか歩いて行ける所ですけどね」

駆  「それにしても、今まで気付かなかったのも驚きだけど、何で急に判ったんですか?」

適男 「目撃情報があったのだよ」

太郎 「目撃情報?」

適男 「この前、随分長く戦った事があっただろう?」

駆  「ああ、3時間ぐらい戦ったヤツですね。1週間ぐらい前だっけ?」

美奈 「私、次の日学校休んじゃいましたから、5日前ですね」

太郎 「怪人だけでなく、シバイタル3将軍も出てきて大変だったなぁ……」

適男 「その時、連中も疲れていたのだろうな。そのままの姿で電車に乗ったらしい」

太郎 「あいつら、電車で移動してるのかよ!?」

適男 「普段はちゃんと人間の姿に偽装しているらしいのだが、その時は気が抜けていたのだろうなぁ」

太郎 「あ、アホすぎる…………」

適男 「そんなワケで、その目撃情報から本拠地が判明したワケなのだよ」

駆  「それじゃあ、さっさと行って、ブッ飛ばしてきますか」

適男 「まあ、待ちたまえ。行くのは今度の日曜日だ。今日はもう疲れただろう」

美奈 「私も宿題をしないといけません」

駆  「じゃあ、日曜にしましょうか。オレも見たいテレビがまだあるし」

太郎 「いいのかなぁ、そんな事で…………」

駆  「いいのいいの。決戦に備えて鋭気を養いましょうや」

適男 「そうしてくれたまえ。おっと、忘れる所だった。
    奈具津君、勝込君、明日は仕事が入っているので、そちらもよろしくお願いするよ」

太郎 「またですか……」

適男 「ご近所付き合いは大切にしないといけないよ。我らボコレンジャーのモットーは
    『アットホームかつバイオレンス』なんだから」

太郎 「いつ聞いても嫌なモットーだなぁ」

適男 「奈具津君は3丁目の金子さんの家で、庭の草刈り。勝込君は2丁目の嶋さんの家で、明日一日ヘルパーを頼まれている。
    コレもボコレンジャーの仕事と思って、頑張ってくれたまえ」

美奈 「私は何もしなくていいんですか?」

適男 「美奈は明日学校だろう?」

太郎 「僕らも大学の講義があるんですが…………」

適男 「気にしなくていいよ。君らの大学には顔が利くからね。単位の事なら何の心配もいらないよ。
    去年だってロクに講義も受けてないのに、留年しなかっただろう?」

太郎 「おかげさまで、周りから白い目で見られてますけどね」

適男 「いいじゃないか。どうせ大学を出た所でこの不況だ。満足な就職先なんて無いだろうし」

太郎 「そういう生臭いセリフは控えてください」

適男 「とにかく、明日はよろしく頼むよ」

太郎 「…………はぁ」

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