部屋とYシャツと私

 今日は朝からお洗濯。
 この一週間ほど振り続いていた雨も上がり、絶好の洗濯日和だった。
 みんなの服を順番に洗って、一つ一つ干してゆく。
 どうにか洗濯が終わった頃には、もうお昼時だった。
 昼食を終え、軽くお仕事。
 締め切りが迫った原稿は無いし、のんびりと筆を進める。
 2時間ほど原稿に向かい合い、キリの良い所まできたので筆を置いた
 そろそろ洗濯物も乾いている頃合い。
 石けんの香りがする衣類を取りこみ、部屋へと運ぶ。
 こういうのも悪くはないと思う。
「こんにちは〜、お届け物で〜す」
 玄関先から郵便屋さんの声が聞こえてきた。
「あ、は〜い。今行きま〜す」
 わたしはアイロンを置き、慌てて玄関まで向かった。
「どうも、奥さん。こちら小包と、こちら宛の手紙です」
「あ、はい。ご苦労様です」
 わたしは小包と手紙を受け取り、再び洗濯物が置かれた部屋に戻った。
「誰からだろう? あら、キットンからだわ。こっちの手紙はノルから!」
 わたしは手紙の宛名を確かめ、順番に封を開いた。まずはキットンの手紙から。
 今、キットンは奥さんのスグリさんと一緒に暮らしている。
 最近では、キノコを中心に、植物の研究者として名を馳せていた。
 手紙の内容は、近況報告と、最近見つけた新種のキノコの関する論文が賞を取った事、
近々こちらに遊びに来る事が書かれていた。
 次にノルの手紙。ノルは今、かつて大魔術教団があった村で、妹のメルさんと静かに暮らしている。
 手紙には、先日メルさんが結婚した事が書かれていた。
 そして、何とレディ・グレイスの生まれ変わりと自称している女性に出会ったらしい。
 話を聞く限り、どうも本当らしいという事だった。こちらも近々遊びに来るという話であった(しかも、その彼女を連れて!)
 手紙を読み終え、わたしは一緒に届いた小包を手に取った。
 差出人の宛名を見ると、そこには『ステア&マリーナ・ブーツ』と書かれていた。
「トラップたちからじゃない!うわぁ、何を送ってきたんだろう……」
 小包を開けると、中には手紙と何やら服のような物が入っていた。
 トラップとマリーナの二人は結婚して、ブーツ盗賊団を引き継ぎ、今でも冒険者として
アチコチ飛び回っている。
 小包に入っていた服は、その旅先で見つけ、わたしに似合うかと思って送ってくれたらしい。
 さらに、手紙にはマリーナが妊娠したので、近々ドーマに帰り、しばらくはゆっくりする事、その帰り道にこちらへ寄る事が記されていた。
「そういえば、もう何年もみんなに会ってないんだなぁ……」
 偶然にも、時同じくして届いた、かつての仲間たちからの手紙に、わたしはノスタルジックな気分になった。
 見るとはなしに、壁に貼ってある写真に視線を送る。
 それは、パーティー解散前、みんなで記念に撮った写真だった。
 わたし、トラップ、キットン、ノル、ルーミィ、シロちゃん、そしてクレイ。
 あの頃の思い出が脳裏に浮かんでは消えてゆく。
「懐かしいなぁ……って、いつまでも思い出に浸ってはいられないか!」
 わたしは回想を打ち切ると、まだまだ山と残った洗濯物に目をやった。
「思い出を懐かしむのは、みんなが来てからでも出来るものね。
さぁ、早く片付けちゃわないと!」
 わたしはシャツの袖をまくり、洗濯物のアイロンがけを再開した。
 しばらく一心不乱にアイロンがけをしていたが、一枚の青いシャツが目に入り、
不意に手が止まった。
 わたしの一番大切な人のシャツだ。
「そういえば、今日帰ってくるんだよね……」
 アイロンを置き、視線を壁のカレンダーに移す。
「早く帰ってこないかな……」
 わたしはそのシャツをギュッと抱きしめた。
 こうしてると、彼に抱かれているようで安心できる。
(今日の夕食はごちそうにしよう。ルーミィもあの子も喜ぶだろうし)
 そんな事を考えていると、なんだか楽しい気分になってくる。
「パステル、何してるの?」
 不意に声をかけられ、わたしは慌ててシャツを放す。
「あ〜あ、折角アイロンかけたのに、またシワシワになってるよ?」
 しわくちゃになった青いシャツを手にしながら、銀髪の女の子が悪戯っぽく笑っている。
「ル、ルーミィ!いつからいたの?」
「クレイのシャツを手に取ったぐらいからだよ。それを抱きしめてニヤニヤしてるから、なんか声かけにくくて」
 そう言ってルーミィはわたしの顔を覗きこむ。
「3日会ってないだけじゃない。もう、いつまでも熱いんだから」
 ルーミィの言葉に、わたしは真っ赤になってしまう。 「そんなに寂しかったんだったら、シャツじゃなくて本人に抱きついたら?」
「え……?」
 ルーミィは部屋のドアの方を指差した。
 すると、そこには彼の姿があった。
 何とも困ったような笑ってるような表情を浮かべている。
「ク、ク、ク、クレイ!? やだ、クレイも見てたの?」
「まぁね。何か声かけづらい雰囲気だったからさ……」
「もう、バカ!!」
 わたしは立ち上がり、二人を睨みながら、クレイの前まで足を進めた。
 しばしの沈黙。そしてクレイが口を開いた。
「パステル、ただいま」
「おかえりなさい、クレイ!」
 わたしは満面の笑みでクレイに抱きついた。
 その暖かな胸に顔をうずめ、続いて頬にキスをする。
 すると、パタパタと廊下を走る足音が近付いてきた。
「母さ〜ん、今日のオヤツ何?あ、父さん、おかえりなさい!」
「クレイしゃん、おかえりなさいデシ」
 部屋の中に、シロちゃんを抱えた黒髪の男の子が入ってきた。
 わたしたちの大切な息子、ジョセフだった。
「ジョセフ、ジャマしちゃダメだよ。外で一緒に遊ぼうね。
パステル、クレイ、それじゃごゆっくり〜。でも、アツアツなのはほどほどにね〜」
 そう言いながら、ルーミィはジョセフを連れて外へ出た。
「る、ルーミィ!? もう、あの子ったら……」
 わたしとクレイは苦笑を浮かべながら、お互い見つめ合った。
「あ、そういえば、今日みんなから手紙が届いたの!近いうちに遊びに来るって!」
 わたしは届いた手紙をクレイに渡した。
「へえ、懐かしいなぁ。みんな元気でやってるみたいだなぁ」
 手紙に一通り目を通すと、クレイもまた、壁の写真を見た。
「もう8年になるんだな」
 しみじみとクレイが言う。
「そうだね。わたしが20歳の時に結婚したから……。ルーミィも大きくなったし、
子供も出来た。わたしは冒険者を辞めて作家になった……。変わってないのはシロちゃんぐらいだね。
クレイも今では立派な騎士だもんね、蒼雷の聖騎士様?」
「その呼び方はよしてくれよ」
 クレイは苦笑を浮かべる。
「ねぇ、クレイ……わたし、とっても幸せだよ」
「オレもだよ」
 二人きりの部屋の中、わたしたちはそっと唇を重ねた。


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