嵐の中で輝いて
嵐の中で輝いて


 激しい雨が窓を叩く。
 風に揺られ、ざわめく森の声を聞きながら、エイジはベッドに横たわっていた。
 例年を上回る大型台風の接近に伴い、今日は家畜小屋の補強やら、緊急の買出しの手伝いやらにかり出され、
エイジはヘトヘトに疲れ果ててはいるものの、妙に気持ちが昂ぶってしまい、なかなか寝付けなかった。
(まいったな、眠れねぇ……)
 何とか眠りにつこうと努力してみるが、頑張れば頑張るほど目が冴えてゆく。
「ああ、クソ!」
 とうとう眠る事を諦め、エイジはガバリと身を起こした。
(軽く汗を流して、ひとっ風呂浴びりゃあ寝れるだろ……)
 そう考え、トレーニングウェアに着替える為にベッドから降りる。
 その時。不意に弱々しいノックの音が耳に入った。
 外から響く風雨の音にかき消されそうなか細いノックに、最初は空耳かとも思ったが、少ししてから再びドアを叩く音が聞こえる。
(一体誰だ、こんな時間に……?)
 不審に思いながらも、身内の誰かである事は間違いないので、エイジはそっとドアを開けた。
 すると、そこには琉菜が立っていた。
 普段はツインテールに束ねられた髪も、今はストレートに下ろされ、可愛らしいパジャマに身を包んでいる。
 何故か枕を抱えて立っている琉菜は、いつもの快活さを微塵も感じさせない、オドオドとした様子でエイジを見上げていた。
「琉菜……。どうしたんだ、こんな時間に?」
「ご、ごめん。その……起こしちゃった?」
 何かに怯えたような眼差しで不安げに尋ねる琉菜を訝しく思いながらも、エイジはドアを大きく開き、中に招き入れた。
「とりあえず入れよ。何か用なんだろ?」
「あ、う、うん……」
 一瞬、チラリとエイジを見上げ、琉菜は慌てたように部屋に入った。
「まあ、適当にその辺に座れよ」
「うん…………」
 促されるまま、琉菜はベッドの端にチョコンと腰を下ろす。エイジはその隣に座ると、胸に抱いた枕に顔を埋めるように俯く琉菜をじっと見つめた。
「で、どうした?」
「…………」
 琉菜はエイジの問いに答えず、俯いたままである。
 エイジは少し苦笑すると、そっと琉菜を肩を抱いた。琉菜はそれに逆らう事なく身を寄せると、相変わらず怯えたような目でエイジを見ると、
その胸に顔を埋めて強く抱きついた。
「エイジぃ…………」
 琉菜はやや涙声でエイジの名を呼ぶ。泣きそうであり、どこか甘えた声がエイジの心をくすぐる。

 戦いが終わって半年。紆余曲折を経て、エイジと琉菜は恋人同士として、サンジェルマン城でかつての仲間たちと生活する事になった。
 お互い好いた者同士が一つ屋根の下で暮らす訳で、見るからに甘い生活を二人が送るであろう事を、期待と、羨望と、
からかい半分で城の住人達は期待していた。
 しかし、告白シーンを城の全員に見られるという大恥をかいた為、二人は少し距離を置いた付き合い方をしていた。
 城のメイドたちには明らかな不満を述べられていたが、さすがに自分たちの色恋沙汰を見せ物にされても敵わないので、
エイジも琉菜も、その辺りは適当に流していた。
 だが、二人きりになると、琉菜はその埋め合わせと言わんばかりに甘えてくる。
 その甘さたるや、まさしくメイドたち(主にチュイルとブリギッタ)が見たいと思っている姿であった。

 そんな琉菜ではあるが、今の状態は明らかにおかしかった。こうして抱き合っていると、その体が震えているのに気付く。
「どうしたんだよ? 黙ってたら分かんねぇだろ」
 優しく諭すようにエイジは言う。その胸に抱かれている事に安心したのか、少し表情を和らげて琉菜はおずおずと口を開いた。
「あ、あのね…………」
 その時、風に飛ばされた木の枝が激しく窓を打ちつけた。
「きゃあぁぁぁぁっ!!」
 琉菜は悲鳴を上げ、先刻よりも強くエイジに抱きついた。見た目に分かるぐらいガタガタと震え、ポロポロと涙までこぼれ出した。
「やだぁ、やだよぉ。怖いよぉ……」
 エイジの胸の中で琉菜はグズつく。そんな彼女の様子を不思議そうに見つめていたエイジは、やがて合点がいったように琉菜を見つめた。
「オマエ、もしかして台風が怖いのか?」
「…………」
 エイジの問いに、琉菜はコクリと頷いた。
「あのなぁ……ガキじゃあるまいし、台風が怖いって…………」
「エイジには分かんないよ!」
 予想外に強い口調で言葉を挟む琉菜に、エイジは目を丸くする。
「沖縄の人間にとって、台風がどんなに怖いものかなんて、エイジには分かんないよ……」
(そういう事か……)
 エイジは再び合点がいったように琉菜を見つめる。かなりの高確率で直撃し、大きな被害をもたらすであろう台風への恐怖という物は、確かに東京育ちのエイジには理解しにくいものがあった。
(何だかんだ言っても、やっぱり女の子だな……)
 エイジは優しく微笑みながら、琉菜の体を強く抱きしめた。
「スマン、悪かった。でもなぁ……そんなに心配しなくても、この城は宇宙船なんだし、台風ぐらいじゃビクともしねぇって」
 エイジは元気づけるように、琉菜の背中をポンポンと叩く。いくらか落ち着いたのか、琉菜は顔を上げると、涙目ではあるが強い眼差しでエイジを睨み、ふくれっ顔を浮かべた。
「理屈じゃ分かってるけど……怖いものは怖いの!」
 クスンと鼻を鳴らし、琉菜は再びエイジの胸に顔を埋めた。
「やれやれ…………」
 エイジは苦笑を浮かべ、琉菜の背をさすってやる。
(今まで台風の日にジェノサイドロンが襲ってこなくて良かった……)
 今の琉菜の様子に、エイジは心底からそう思った。
「しっかしなぁ。オマエ今までどうしてたんだ? オレが来る前にだって、台風が直撃した事ぐらいあっただろうに」
 素朴な疑問をエイジは口にする。記憶を辿れば、エイジが城に来た以降にも、直撃とまではいかなくても、かなりの荒天に見舞われた事ぐらいあった筈であった。
「今までは……直撃は無かったし、こんなに大型の台風じゃなかったもん。それに…………」
 琉菜はそこで何かを言いよどむように言葉を切る。次の言葉を繋ぐかどうか思案するように視線を逸らす。
「それに……何だよ?」
「それに、その……甘えられる人が出来たせいか、急に怖くなって……部屋に一人じゃとてもいられなくて……」
 琉菜はしどろもどろになりながら、恥ずかしそうに顔を伏せる。
「それでオレの部屋に来た、と」
「そ、そうよ! エイジのせいで台風恐怖症になっちゃったんだからぁ!」
 恥ずかしさが頂点に達したのか、琉菜は逆ギレ気味に怒鳴り声を上げた。
「何でオレのせいなんだよ!」
「エイジのせいだもん! エイジが……優しくしてくれるから…………」
 急に声のトーンが下がる。その表情も強張っていたのが柔らかくなってゆく。
「今までは、こんな事で誰かを頼れなかったけど、今は……エイジが支えてくれるから……」
 琉菜はエイジの背に手を回し、ギュっと抱きしめた。
「わたし……弱くなっちゃった。エイジが守ってくれる事に期待しちゃうから。こんなのダメだって分かってるけど…………エイジの胸が……温かいから…………」
「琉菜…………」
 エイジは慈しむように琉菜の頬にさする。琉菜は目を閉じて顔を上げる。
 ごく自然に二人は唇を重ねあった。
「ん…………」
 琉菜の腕がエイジの首に絡みつく。
 エイジはそのまま琉菜の体をベッドに横たえた。
「琉菜…………」
「エイジ…………抱いて。怖い事なんて忘れさせて…………」
「ああ、全部忘れさせてやる」
 エイジは再び琉菜と唇を重ね、頬から首筋へ舌を這わせた。
「あ…………」
 ゾクゾクする感触に、琉菜の体がビクリと震える。
 エイジの手がパジャマのボタンを一つずつ外し、小振りな乳房に伸びていった。
 胸元をはだけさせ、その乳房を優しく揉みしだきながら、固くいきり立った乳首を指で摘む。
「ひゃうっ!」
 琉菜は弓なりに背を反らし、体を震わせた。
「胸は小せぇのに、ココの感度はバツグンだよな」
 意地悪く言うエイジに、琉菜は潤んだ瞳で精一杯睨み付けた。
「あたしが小さいんじゃなくて、他のみんなが大きすぎるだけ……あんっ!」
 琉菜が言い終わる前にエイジは桃色の突起に吸い付き、舌でそれを玩ぶ。
「あ、ダメ! そ、そんな風にしたら……や、やぁ…………ん……あふぅ……」
 快感に身悶えする琉菜に、エイジはそっと口を離してもう一度唇を重ねた。
「エイジぃ…………んふぅ…………」
 舌を絡め、やや鼻にかかった声を上げる琉菜。何度も唇を重ね、その舌を貪りあう。
「琉菜、四つん這いになってみ」
「え……う、うん…………」
 エイジに言われるまま、琉菜は体を起こしてベッドの上で四つん這いになる。
「相変わらずデッカいケツだなぁ。フトモモも何つうかパッツンパッツンって感じだし」
 眼前に突き出されたムッチリした尻と太ももを眺めながら、エイジはしみじみと呟く。
「も、もう! そんな事言わないでよぉ……」
 バストに比べて、いささかボリューム過多気味のヒップと太ももを気にしている琉菜は、顔を真っ赤にしてエイジを睨む。
「まあまあ、そう怒鳴るなって。オレは好きだぜ、このボリューム満点のケツも、タップリ詰まってそうなフトモモも、琉菜の全部がな」
 エイジは琉菜のヒップに軽くキスをすると、すでにグッショリと濡れそぼっているヴァギナにペニスを押し当てた。
「このまま……後ろからしてもいいか?」
「イヤだって言ってもするクセに…………バカ」
 口では毒づきながらも、特に抵抗する事なく、琉菜は四つん這いのままエイジの方へ目を向けた。
「いいよ、来て……」
「それじゃあ……イクぜ」
「ん……ふあ……あ、あぁ…………」
 ゆっくりとエイジの物が琉菜の中に入ってゆく。
「エイ…ジ……動いて…………」
「ああ……」
 琉菜に言われるまま、エイジは腰を動かし始めた。最初はゆっくりと、そして次第に早く、激しく腰を突き出す。
「あ、あぁ、エイジ……エイジぃ!」
 男根が内壁を擦る感触に、琉菜は甘い喘ぎをあげながらエイジの名を呼ぶ。
「あん、そ、そこ! あぁん、もっと……もっと激しく……」
「そんなエロいお願いをするのはこのクチか?」
「もう! いいでしょ別に……んあぁん、んむ……んん…………」
 エイジの指が琉菜の唇に触れる。琉菜はその指を咥えこみ、ヌメヌメと舌を絡めた。
 エイジは腰のグラインド速度を緩め、先端ギリギリの所まで男根を抜くと、勢いをつけて根元までを一気に押し込んだ。
「ひぃっ!?」
 強烈な挿入に、琉菜は悲鳴を上げながら体をガクガクと震わせる。
「どうした? 激しくしてほしいんだろ?」
 再びペニスを引き抜き、叩きつけるように挿入する。エイジは乱暴とも言えそうなピストンを続けた。
「ダ、ダメ! は、激しすぎ……エ、エイジ、こ、壊れちゃう! あ、ひぃぃんっ!!」
 琉菜はイヤイヤをするように首を振りながら、ベッドのシーツをギュッと掴んだ。
 それでもエイジはガムシャラに琉菜を突き続けた。ピストンするごとに琉菜の体が大きく弾む。
「ひゃあん、お、お願い、もっと……優しく…………ひぃんっ!」
 グズったような声を上げる琉菜に、エイジは腰の動きを弱めながらそっと口付けする。
「わかったよ。じゃあ、今度は前からな?」
 エイジは一度ペニスを引き抜くと、琉菜の体を反転させてベッドに横たわらせた。
 もう一度口付けし、エイジは正常位で行為を再開した。先刻とは打って変わって、慈しむように、優しく琉菜を抱く。
「ん……んん…………ふぅんっ…………」
 琉菜は甘い声を上げながら、エイジの首に腕を回し、抱きしめるようにエイジの頭を引き寄せる。
 唇を重ね、舌を絡めあい、全身に薄っすらと浮かぶ汗が交じり合う。
「琉菜、そろそろ……」
 エイジの呼気が少しずつ早くなってゆく。
「わ、わたしも……も、もう…………」
 小刻みに体を震わせながら、琉菜も同じように呼気が荒くなる。
「くっ……る、琉菜!」
「くぅん、エ、エイジぃぃぃっ!!」
 琉菜が体をビクリと震わせ、オルガに達すると同時に、エイジもまた絶頂を迎えた。
 エイジの熱い精が、ドクドクと琉菜の中に注ぎ込まれてゆく。
「くっ…………ふぅ…………」
「あっ…………んん…………」
 エイジは射精を終えたペニスを引き抜くと、一度大きく肩で息をつき、琉菜の隣に倒れこむように横たわった。
 頬を上気させて息を整える琉菜の髪を愛おしそうに撫で、ちょっとバツの悪そうな顔で彼女の顔を覗き込む。
「悪ぃ、中に出しちまった…………」
「もう、赤ちゃん出来ちゃったらどうするの?」
 咎めるように、それでいてどこか悪戯っぽい表情で琉菜が見つめ返す。
「その時は……ちゃんと責任取るよ。学校辞めて、どこかで働いて、それから、その……式も挙げねぇとな」
「式?」
「だから……結婚するんだから、結婚式挙げねぇとダメだろうが」
 意外と生真面目な事を言うエイジに、琉菜はつい可笑しくなってしまい、クスクスと笑みを浮かべた。
「それってプロポーズ? だったら、もうちょっとロマンチックな事言ってほしかったなぁ」
「う、うるせぇな、そんなんじゃねぇよ! 妊娠しちまったら、責任は取るって事だよ!」
 エイジはクルリと琉菜に背を向けた。
「プロポーズなら……シチュエーション整えて、もっとそれらしい事言うつもりだっての…………」
「エイジ…………」
 琉菜は満面の笑顔でエイジに抱きついた。
「エイジ……大好き!」
「…………」
 エイジは無言のまま琉菜の方を向き、そのままキスをした。
「キスだけ? エイジは私の事『好きだ』って言ってくれないの?」
 そう言って不満げに唇を尖らせる琉菜に、エイジはやや狼狽した態で目を逸らす。
「そんなモン……いちいち言葉にしなくても分かってるだろうが」
「ダ〜メ。分かってても、女の子はちゃんと言葉で伝えてほしいものなのよ」
「そんなこっ恥ずかしい事、改めて言えるか! そういうのは、その…………」
 エイジはゴニョゴニョと言葉を濁し、気まずげに視線を泳がせると、再びクルリと背を向けてしまった。
「だ〜〜〜〜っ、そんな事気にしてないで、さっさと寝ろ!」
「なによぉ、エイジのけちんぼ!」
「うるせぇ!」
「ふ〜んだ!」
 琉菜も拗ねたように頬を膨らませ、エイジに背を向けた。
 どれぐらいそうしていただろうか。やがてエイジが静かに口を開いた。
「…………琉菜、起きてるか?」
「…………何よぉ」
「…………」
 またも、しばしの無言。しかし、エイジはすぐに言葉を繋ぐ。
「その…………好き、だよ」
「えっ……?」
 琉菜はエイジの方に顔を向ける。当のエイジは背を向けたまま、さらに言葉を続けた。
「だから、その…………オマエが好き、だよ」
 ぶっきらぼうな口調ではあるが、それはおそらく照れ隠しであろう。その証拠に、エイジの耳は真っ赤になっていた。
「うん。私も好き、大好き、エイジ!」
 琉菜はエイジの背に体を密着させ、強く抱きついた。
 エイジは胸に回された手を優しく握り、少し抱擁を緩めさせると体の向きを変え、もう一度琉菜と向き合った。
 そして、その柔らかな体をそっと抱きしめた。
 琉菜はエイジの胸に顔を埋め、その温かさを確かめるように頬擦りをした。


 激しい雨が窓を叩く。
 風に揺られ、ざわめく森の声を聞きながら、琉菜はベッドに横たわっていた。
 風も、雨足も、先刻よりも激しさを増している。
 だが、琉菜はもう何も気にならなかった。
 何よりも大切な、本当に大好きな人が傍にいるから。
 愛する人の……エイジの鼓動を感じながら、琉菜は静かに眠りについた。


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