天使ノROCK
天使ノROCK




 街中でボンヤリと喫茶店の店先を見つめる由香里。

 しばらく眺め続けていたが、やがてため息を付いて、その場から離れる。

 公園でベンチに座り、俯き加減で物思いに耽る由香里。そこへ突然男の声がする。



助六 「恋の悩みかい、ベイビー?」



由香里「え?」



 慌てて顔を上げる由香里。ジャングルジムの上に、甚平にサングラスという、どこから見ても不審人物にしか見えない男が立っている。



助六 「だったら、オレにまかせな。とう!」



 ジャンプ一閃、なぜか車道まで飛び出してしまう助六。着地すると同時に、間髪入れずに突っ込んできたバイクに跳ね飛ばされる。

 突然の出来事に言葉を失い、呆然とする由香里。だが、すぐに気を取り直し、助六の元へ駆け寄ろうとする。



由香里「だ、大丈夫ですか?」



助六 「いやぁ、ヒドイ目にあったぜ」



由香里「えっ?」



 背後から声がして、驚く由香里。慌てて振り向くと、カスリ傷一つ無い助六の姿がある。



由香里「え? え? あ、あの、大丈夫……ですか……?」



助六 「ん? ああ、全っ然大丈夫、何ら問題ナッシングやね。それより!」



 妙なポーズで由香里を指差す助六。



助六 「今、恋の悩みを持ってるんじゃないかい、お嬢さん?」



由香里「は? え、ええ、まあ……」



助六 「だったら、オレに任せな! その恋、見事に成就させてやるぜ!」



由香里「はあ……」



 状況が把握出来ず、生返事をする由香里。



助六 「おっと、自己紹介がまだだったな。ホイ、名刺」



 懐から名刺を取り出す助六。名刺には『アナタの恋愛、成就させます。キューピッ道 三段 羽柴助六』と書かれている。



助六 「オレの名前は羽柴助六。いわゆる、恋の天使、キューピッドってやつだ」



由香里「キューピッドぉ〜?」



 顔を上げ、助六をしげしげと眺める由香里。露骨に胡散臭そうな表情を浮かべる。



助六 「おいおい、そんな目で見るのは関心しないなぁ」



由香里「え〜と……さよなら!」



 何かアヤしげな物を感じ、全力疾走で逃げ出す由香里。かなり走って、ようやく一息付く。



由香里「何なのよ、あのオッサン……。新手の変質者?」



助六 「おい、オッサン呼ばわりはともかく、変質者はないだろう」



由香里「うわっ!?」



 追われた様子も無いのに、目の前に現れた助六に、驚愕する由香里。



由香里「な、な、なんで!?」



助六 「仮にも天使サマだ。一度目ェ付けた獲物は逃がさないやね」



由香里「い、いやぁぁぁぁぁっ!!」



 またも逃げようとする由香里の腕を掴む助六。



助六 「まあ、待て。話を聞けって。オレは、アンタの恋を成就させるためにやって来たキューピッド様なんだぜ?」



由香里「どこの世界に、甚平着たキューピッドがいるのよ!」



助六 「今、目の前にいるじゃねぇか」



由香里「信用出来ないっつうの!」



助六 「視野は広く持たないといけないなぁ」



由香里「うるさ〜いっ! 放してよ、この変態! 」



 ニヤニヤ笑っていた助六。急に真顔になり、掴んでいた手を放す。

 開放されて逃げ出そうとする由香里。だが、突然激しい頭痛を起こし、その場にうずくまる。



由香里「痛っ! いたたたたたっ!」



助六 「エンジェ〜ル・アイアンクロ〜」



 ボソリと呟かれた助六の声に、痛む頭を抱えながら振り向く由香里。

 すると、何も無い空間を、力一杯握り締めているような助六の姿がある。



助六 「仮にも天使様に向かって、二度も変態呼ばわりするかなぁ。大体、話もロクに聞かずに、そうやって悪し様に罵るのって、

    人としてどうよ? 猛省を促したい所だなぁ……」



 腕を上下左右に振り回す助六。その腕の動きにシンクロして、由香里の頭も動く。



由香里「痛っ! いたたたっ! ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ!」



助六 「わかればよろしい」



 腕の力を抜く助六。途端に痛みが消える。



由香里「あれ? 痛くない……」



助六 「こうして不思議パゥワァを披露すれば、オレ様が天使だってのも納得出来るだろう?」



由香里「は、はぁ……」



 釈然としない由香里。だが、とりあえず逃げる事が出来ないっぽいので、話を聞く事にする。










 最初の公園に戻った助六と由香里。

 助六はベンチに腰かけ、いつの間にやら手にしている缶ジュースを由香里の手渡し、自分も缶を開ける。



助六 「ホイ、午後ティーでいいよね?」



由香里「はぁ、どうも……」



 渡された缶を片手に、名刺と助六を何度も見る由香里。



由香里「あの、質問が……」



助六 「おう、何でも聞きな。お互いの信頼関係がないと、恋の成就もウマくいかないからな」



由香里「この、『キューピッ道』って何?」

助六 「そりゃアレだ、剣道とか柔道とか、茶道とか華道とか色々あるだろ? そんなようなモンだ。三段持ってるのって、

オレ以外にはほんのチョットしかいないんだぜ?」



由香里「そ、そうなんだ……」



助六 「おうよ! だから大船に乗ったつもりで、このキューピッド様に任せてりゃイイってワケよ」



由香里「その、キューピッドって、みんなアナタみたいな感じなの? もっとこう、違うイメージがあるんだけど……」



助六 「ああ、どうせ布切れ一枚腰に巻いた子供が、弓矢持ってるってヤツだろ? 確かに弓矢はオレも持ってるけどな、

あんなモン、昔の人間が勝手に作ったイメージだっての」



由香里「そうなの?」



助六 「服装なんてそれぞれだよ。オレはたまたまこんなカッコってだけだ。まあ、アンタがどうしても、

布切れ一枚の姿がイイってんなら着替えるけどな」



由香里「全力で拒否します」



 間髪入れず、キッパリと言い切る由香里。



助六 「まあ、オレの事はそんな所でいいだろ? 問題は、アンタの恋だ。どうよ、オレに任せてみるかい?」



由香里「……どうせイヤだって言っても問答無用なんでしょ?」



助六 「ぶっちゃけた話、その通りだ」



由香里「……まあ、何もしないよりはいいかも」



 諦観めいた笑みを浮かべ、助六を見つめる由香里。



由香里「一つ、お願いするわ。その代わり、絶対にこの思い、成就させてよね!」



助六 「おう、任せろ! 絶対にくっつけてやるよ。(ボソリと)どんな手段を使ってでもな……」



由香里「ちょっと待って。今、スンゴイ不穏な言い方しなかった?」



助六 「馬鹿野郎。恋愛は戦争だぜ? 手段なんて選んでられるか」



由香里「ちょ、ちょっと何する気なの!?」



助六 「う〜ん、そうだなぁ。少しぐらいはアンタに選択の余地をやるか。限りなくイリーガルな方法と、

100パー犯罪行為なのと、どっちがいい?」



由香里「どっちも却下!!」



助六 「オイオイ、そんな事で、本当に恋が実ると思ってんのか?」



由香里「ダメったら、ダメ!」



助六 「いや、しかし……」



由香里「却・下!」



 大声で助六の言葉を遮り、睨み付ける由香里。



助六 「ヘイヘイ、わかりましたよ、ったく……」



渋々といった様子を浮かべる助六。



由香里「そういえば、さっき弓矢は持ってるって言ってたよね? それって、射抜かれたら、誰かを好きになっちゃうとか?」



助六 「ああ、アレか。そういう能力もあるな」



由香里「だったら、それ使えばいいんじゃない?」



助六 「アレなぁ……。アンタがそれでいいんなら使うけど、犯罪はイヤなんじゃないのか?」



由香里「なんで犯罪になるのよ?」



助六 「アレはな、文字通りハートを射抜かんとダメなんだ。ハートってどこか判るか?」



由香里「もしかして……心臓?」



助六 「大正解! 常人なら、間違いなく死ぬな」



由香里「ダメじゃん!」



助六 「アレはどちらかと言うと、無理心中の道具だからな。そっちの方向性でいいなら、オレに異存は無いが……」



由香里「いいワケあるか!」



ドッと疲れた様子で肩を落とす由香里。ふと視線を感じ、顔を上げる。

すると、通行人が怪訝そうにこちらを見ている。



助六 「ああ、一つ言い忘れてたけど、あんまり大声出さん方がいいな。

オレの姿は、霊感があるヤツか、天使の影響を受けてるヤツにしか見えないからな」



由香里「え?」



 もう一度通行人の方を見る由香里。通行人は露骨に目を逸らして去って行く。



助六 「アッハッハ、一人で喋ってるアブナイ女と思われたみたいだな。まあ、気にしなさんな。どうせ赤の他人だ」



 瞬間、助六の顔面にパンチが炸裂する。



由香里「そういう大事な事は、最初から言っとくように」



助六 「い、イエッサー……」



 流れる鼻血を押さえる助六。



助六 「とりあえずだ、作戦は後で考えるとして、先にヤローのツラ拝んどくか。さあ、案内しやがれ」








 再び喫茶店の前にやって来た由香里。物陰から、店の中を窺う。



由香里「あ、あの人! 今、コーヒー運んできた……」



助六 「あぁん、どいつよ?」



由香里「ホラ、あそこのブラピとベッカム様足して2で割った感じの……」



助六 「オレには、ヒゲの無いチャック・ノリスにしか見えんが……」



由香里「何言ってんの、アンタ目ェ腐ってんじゃないの?」



助六 「そりゃ、コッチのセリフだ……って、やや!?」



由香里「え、どうしたの?」



助六 「アレを見ろ!」



 自分たちのいる真向かいの物陰を指差す助六。

そちらに視線を送ると、自分たちと同じように店先を窺っている2人組がいる。



由香里「あれって、良子?」



助六 「アイツ、又衛門じゃねぇか……」



 向こうもこちらに気付き、驚いたような顔を見せる。



由香里「何、あの隣にいる変なの、知り合い?」



助六 「オレの後輩だ。アンタこそ、あの女知り合いか?」



由香里「幼馴染みよ」



 そう言い放って駆け出す由香里。



由香里「良子! こんな所で何やってんのよ!」



良子 「由香里こそ! あ、まさか」



由香里・良子「「アンタもあの人に目を付けたんじゃないでしょうね!」」



 見事にハモり、睨み合う二人。



又衛門「久しぶりッスねぇ、先輩……」



助六 「又衛門、オマエ……」



又衛門「どうやら、お互いターゲットは同じみたいですねぇ……。せんぱぁい、手ェ引いてもらえませんかねぇ」



助六 「ざけんな。手を引くとしたら、オマエの方だろうが。先輩を立てるのが後輩の務めだろ?」



又衛門「だから、先輩の顔が潰れないように、手を引いてくれって言ってるんじゃないですか」



助六 「しばらく会わないウチに、随分とデカイ口を叩くようになったなぁ」



又衛門「いつまでも先輩面されるの、ウザイんですよぉ」



 こちらも一触即発の雰囲気になる。



助六 「よぉし。だったら、どっちが先に恋を成就させるか勝負だ」



又衛門「望む所ですよ」



助六 「よっしゃ。オマエらも異存は無いな!」



良子 「もちろんよ!」



由香里「こっちも望む所よ!」



助六 「よし、それじゃあ作戦会議だ! 後で吠え面かくなよ、又衛門!」



又衛門「その言葉、そっくりそのまま返しますよ!」










 良子&又衛門と別れた由香里たち。公園で作戦会議を開く。



助六 「で、作戦だが……手っ取り早く、又衛門ともども、あの女もツブすって事で……」



由香里「だから、そういうのはナシだって言ってるでしょ!」



助六 「オレの姿は普通の人間には見えないんだぜ? 完全犯罪もラクラクOKだ」



由香里「アンタ本当に天使? とにかく、乱暴な手段はダメ!」



助六 「甘い、甘いなぁ。そんな事じゃ、あの女に男捕られちまうぜ?」



由香里「そうまでして、彼氏欲しいとは思わないわよ……」



 疲れたようにため息をつく由香里。



助六 「志は立派だけどな。アチラさんは殺る気まんまんだぜ?」



 由香里の背後を指差す助六。

その指先を追ってみると、マスクにサングラスという、おそまつな変装でバットを持っている良子と又衛門がいる。



良子 「あ、ヤバ、気付かれた!」



 慌てて逃げる二人。唖然としてそれを見送る由香里。



助六 「向こうは手段を選ばない事にしたみたいだけど、アンタはどうする? それでも、穏やかなやり方ってんなら、

まあ考えない事もないが」



しばらく良子たちが逃げた方をみていた由香里。

不意に助六の方へ顔を向け、妙に晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。



由香里「サクッと殺っちゃおっか?」



助六 「殺っちゃいますか!」



 答える助六。こちらも妙に清々しい笑顔を浮かべる。



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