今すぐKiss Me!(リィルVer.) 今すぐKiss Me!(リィルVer.)


 ある晴れた日。エイジはリィルを連れて街へ遊びに出かけた。
 
ゼラバイアとの戦いが終わり、かれこれ三ヶ月が過ぎようとしている。
アースガルツは解散されたが、エイジはサンドマンの願いもあり、サンジェルマン城に留まっていた。
サンドマンを『兄』と呼ぶには抵抗があるし、最愛の姉アヤカと仲睦まじい所などあまり見たくはないのだが、脱・シスコンの為もあり、城に残ったのだ。
 無論、城で暮らす理由はそれだけではない。世間知らずの斗牙の今後も気になるし、何よりもリィルの事が心配だった。
 いつか琉菜と話したように、『グランナイツ兄妹』として、まだまだ手のかかる弟妹を放ってはおけなかったのだ。
 しかし、リィルへの『思い』が妹に対するそれとは違い、一人の異性に対する『想い』へと変化するのに、さほど時間は要さなかった。
(いや、きっと最初から『妹』じゃなくて、一人の『女の子』として気になってたんだろうな)
 エイジは自分の気持ちをそう分析し、数多の紆余曲折を経てその想いをリィルに告げた。
 そしてリィルはそれに応えてくれた。
「わたしも……エイジさんには『妹』ではなく『女』として見て欲しかったんです……。だから……嬉しい…………」
 真っ赤になってそう言ったリィルの姿は、これまで何よりも大切であった姉の姿を打ち消し、
エイジの心の一番大事な部分に、肖像画のように焼き付いた。そして、その日エイジは初めてサンドマンの事を『兄』と呼んだのであった。
「リィル、どこか行きたい所はあるか?」
 デートの定番(という具合に琉菜に入れ知恵され)として行った映画を観終わり、エイジはリィルに尋ねた。
「エイジさんと一緒なら、どこでも構いません」
 リィルはニッコリと微笑み、それから何か思いついたように手を叩いた。
「そうだ! エイジさん、わたし喫茶店に行きたいです」
「喫茶店?」
「はい。その……『コーラ』を飲んでみたいんです。ダメ……ですか?」
 上目遣いにエイジを見つめるリィル。美少女にそんな仕草をされて、無碍に断れる男など存在しないだろう。
「構わないぜ。じゃあ、行こうか」
「はい!」
 エイジはしっかりとリィルの手を引き、雑踏の中を進んで行った。


 喫茶店で仲良くコーラを飲み、楽しい一時を過ごした二人は、沈み行く夕日を眺めながら帰路についていた。
「キレイな夕焼けね……」
 リィルは立ち止まり、街を赤く染める夕日を眩しそうに見つめた。
「ああ。キレイだ……」
 エイジは夕日そのものよりも、むしろ日の光に照らされたリィルを愛しげに見つめる。
「わたし、夕日に照らされている風景って好きなんです。切ないような、それでいて優しげで、どこか温かい光で世界を赤く染める……それがとてもキレイで……。
日が落ちるまでのわずかな間だからこそ、より一層美しく思えるの」
「そうだな。夕日の光に照らされて、髪がそれを反射してキラキラ輝いてて……とてもキレイだ」
「え…………?」
 リィルは自分を見つめるエイジの眼差しに、みるみる頬を染めてゆく。
「も、もう! エイジさんったら…………」
 恥ずかしげに俯くリィルに笑みを浮かべ、その肩を抱こうとした時、エイジは不意に誰かの視線を感じた。
 反射的にそちらへ目を向けると、そこには一人の少女が立っていた。
「エイジさん?」
 エイジの様子に不審を感じ、リィルもその視線を追って振り向き、少女と対峙した。
「あ、あんたは…………」
「お久しぶりね、紅エイジ君」
 そこにいたのは、EFAのGソルジャー隊隊長、フェイ・シンルーであった。
「フェイ……だったか?」
「そうよ。覚えててくれて、嬉しいわ」
 言いながらフェイはエイジに近付き、ずいと顔を寄せた。
「今日は休みだったから、ちょっと街をブラついてたんだけど、こんな所で会うなんて偶然ね」
「あ、ああ、そうだな……」
 エイジは少しどぎまぎしながら、思わず身を引く。しかし、それに合わせてフェイがさらに近付く。
「私って友達いないから、こんな時でも一人ぼっちなのよねぇ。前にあなたに言われたように、性格が悪いせいかしら?」
「あ、いや、その……」
 エイジは慰安旅行で行った温泉地で、フェイと交わした会話を思い出す。
「あ、あの時はオレもついカッとなっちまって、その……悪かったな」
「フフ、別に怒ってないわ。むしろ逆。私の周りには、あなたみたいなタイプがいないから、あんな事言われたの初めてだった……。
思った事を、思ったまま伝えられるその真っすぐさ……ちょっと羨ましいわ」
 フェイはさらに一歩前に進む。
「デート中だったの?」
 フェイはチラリとリィルの方を見る。
「あなたは確か……リィル・『ゼラバイア』だったかしら?」
 『ゼラバイア』という部分を妙に強調して言うフェイに、リィルはムッとした表情で反論した。
「違います。リィル・『サンドマン』です」
「そう。まあ、どっちでも良いけど」
 フェイは興味を無くしたようにリィルから視線を逸らすと、再びエイジを見つめる。
「そうやって仲良くデートをしている所を見ると、二人は付き合ってるのかしら?」
 ほとんど触れ合わんばかりの距離にまで近付くフェイとエイジの間に、リィルは強引に割り込んでエイジの腕にしがみついた。
「そうです! わたしたちは恋人同士です!」
 リィルはムキになったように言う。フェイの言動に、何か直感的な危機感を感じたのだ。
「そう……。じゃあ、これ以上ジャマするのも悪いわね……」
 そう言いながら、フェイはいきなりエイジの首に手を回し、そのまま唇を重ねた。
「!?」
「!!!!」
 エイジとリィルは驚愕に目を見開く。
 フェイはそっと唇を放すと、真っ赤になって呆然としているエイジに微笑みかけた。
「今日はこれで失礼するわ。また会いましょう、エイジ君」
 フェイは同じく呆然とするリィルを見下したような視線で見つめ、その肩に手を置いて耳元でそっと囁いた。
「エイジ君は必ず私のモノにしてみせるわ。EFAの将校としてではなく、一人の女として、ね。
せいぜい奪われないように気をつけなさい。まあ、無駄な努力だけど」
 リィルはその言葉にハッと我に返り、フェイを睨んだ。
 フェイは馬鹿にするような笑みを浮かべ、そのまま雑踏の中へ消えて行った。
「リ、リィル……その……」
 無言でフェイの消えた方を見つめ続けるリィルに、エイジはバツが悪そうに声をかける。
 そのエイジを一度キッと睨み、リィルは無言で歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと待てよ、リィル!」
 足早に歩くリィルを、エイジは慌てて追いかけて行く。
「な、なぁリィル。もしかして怒ってるのか……?」
 一言も口を利こうとしないリィルに、エイジはおずおずと話しかけた。
「あ、あれは、その……そう! 不可抗力ってヤツだよ。オレは別……」
「わたし、怒ってなんかいません……」
 エイジの方を見ようともせず、ボソリとリィルは言う。
「オレが大事なのはリィルだけだ。だから……」
「怒ってません!!」
 リィルは足を止め、吐き出すように怒鳴った。そして顔を上げてエイジを見る。
 その瞳は不安に揺れ、うっすらと涙が浮かんでいた。
「リィル……」
 エイジが二の句を告げるよりも先に、リィルがその胸に飛び込んできた。
「ごめんなさい、エイジさん……。エイジさんの事は判ってるつもりだし、
意味の無いヤキモチだって判ってるけど……わたし、急に不安になったんです……」
 リィルはエイジの胸元に顔をうずめる。
「あの人にエイジさんを奪われるんじゃないかって、急に不安になって、
わたし……それをごまかすのに、エイジさんに八つ当たりして……」
 リィルは顔を上げ、まっすぐにエイジを見つめた。
「……キスしてください」
「え!?」
「わたしにも……キスしてください。ダメ……ですか?」
「そ、それは……」
 エイジは困ったように頭を掻き、辺りを見回した。街中で繰り広げられているラブシーンに、
通行人たちはさほど興味も無さげに、チラリと一瞥するだけで通り過ぎて行く。
 そんなエイジを見つめ続けるリィルに、やがてエイジは決心を固めた。
「判った……。じゃあ、目を閉じてくれるか? その……さすがに照れる」
「あ……は、はい」
 リィルはエイジの胸元から一歩下がり、少し顔を上げて目を閉じた。
 エイジがその肩にそっと手を置くと、一瞬、ビクリと体が震えた。
 鼓動が早鐘のように鳴り響く。ほんのわずかな時間が無限に感じられたその時。
 エイジの唇がリィルのそれとゆっくり重なった。
「ん…………」
 エイジの温かさが唇を通して伝わって来る。リィルの体から、徐々に力が抜けてゆく。
 唇が離れ、リィルは目を開き、眼前のエイジを見つめた。
 エイジもまたリィルを見つめた。
「エイジさん……好き、大好き……」
「オレも……好きだよ、リィル」
 そして二人はもう一度唇を重ねた。お互いの愛を噛み締めるように……。


琉菜Ver.も読んでみる
動画 アダルト動画 ライブチャット