今すぐKiss Me!(琉菜Ver.) 今すぐKiss Me!(琉菜Ver.)


 ある晴れた日。エイジは琉菜と一緒に街へ遊びに出かけた。
 
ゼラバイアとの戦いが終わり、かれこれ三ヶ月が過ぎようとしている。
アースガルツは解散されたが、エイジはサンドマンの願いもあり、サンジェルマン城に留まっていた。
サンドマンを『兄』と呼ぶには抵抗があるし、最愛の姉アヤカと仲睦まじい所などあまり見たくはないのだが、脱・シスコンの為もあり、城に残ったのだ。
無論、城で暮らす理由はそれだけではない。世間知らずの斗牙の今後も気になるし、何よりもリィルの事が心配だった。
いつか琉菜と話したように、『グランナイツ兄妹』として、まだまだ手のかかる弟妹を放ってはおけなかったのだ。
 サンジェルマン城から学校に通うのは、なかなかに厳しい物があったが、それでもグランナイツとしての訓練に比べれば
どうという事もないので、それなりに楽しい毎日を送っていた。
 そんなある日、琉菜が城に戻って来た。『転校生』としてやって来た琉菜と学校で再会したエイジは、それこそ目が点になった。
「元々、実家の整理がついたら戻ってくるつもりだったのよ。斗牙の事も、リィルの事も気になるからね。
何といってもアタシたち『グランナイツ兄妹』だし」
 そう言って琉菜は明るく笑った。
「じゃあ、何で今まで黙ってたんだよ? 城のみんなも知ってるのか?」
「あはは〜、驚かそうと思ってね。アタシが戻って来る事知らなかったの、エイジと斗牙、リィルだけだよ」
「あの二人にも言ってなかったのかよ」
「だって二人とも嘘とかつけるタイプじゃないじゃない。ひねくれたアンタと違ってね」
「んだとぉっ!!」
「何よぉ!」
 久しぶりの再会(と言っても、ほんの1ヶ月ほどだが)だというのに、ついつい二人は睨みあう。
だが、そんな軽い喧嘩に何か懐かしい物を感じ、どちらからともなく、笑みがこぼれた。
「離れてたのは1ヶ月ぐらいなのに、何かスッゴク懐かしい感じ」
「確かにな」
 そう言って、二人は声を出して笑った。そしてエイジは心からの言葉で言った。
「おかえり、琉菜」
「ただいま、エイジ」
 そして二人はもう一度笑った。優しい笑みを浮かべながら、琉菜が口を開く。
「実はね、帰ってきたのには、もう一つ理由があるんだ……」
「理由? 何だよ」
「えへへ〜、まだ秘密!」
「????」
 はにかんだ笑みを浮かべて、琉菜は話を打ち切った。エイジもあえてそれ以上詮索するような真似はしなかった。
 こうして、城での生活が賑やかな物になり、エイジと琉菜はケンカしながらも仲良く暮らしていた。
 琉菜は以前のように、常に斗牙にベッタリ、という事がなくなっていた。無論、以前のように何かと斗牙の事を気にかけてはいるのだが、
恋愛感情というより、それこそ姉が弟に寄せる思いから来る物のように思われた。
 少し気になったエイジは、それとなく琉菜に訊ねてみた。すると、意外にもあっさりとした答えが返ってきた。
「斗牙はアタシの事を大切に思ってくれてるけど、それって『仲間』としてであって、『女の子』としてじゃないんだよね。
アタシは斗牙が好き。だから『仲間』として、『お姉さん』として、斗牙に接しようと思うの」
「琉菜……オマエ、それで良いのかよ。アイツは世間知らずだから、今はそういった感情が無いだけで、
いつかは、その…………」
「心配してくれてありがとう、エイジ。でも、いいの。アタシにはもう、他に好きな人がいるから……」
「そ、そうなのか……?」
 エイジは何故か次の言葉を出す事が出来なかった。胸の奥が一瞬ズキリと疼いたような気がする。
「いい加減な女だって思う? あはは、アタシ自身いい加減だと思うから、別に構わないわよ。でもね、アタシ気付いたんだ。
アタシはその人の事、ずっと前から好きだったんだって。その人は、いつだってアタシや他のみんなの心配をしてくれた。
離れてみて初めて判ったの。その人への、アタシの気持ち…………」
 琉菜はいたずらっぽい視線をエイジに投げかけ、ニッと笑う。
「誰の事か気になる? エイジも知ってる人だよ」
「べ、別に気にならねぇよ。ま、まあイイんじゃねぇか。オマエも黙ってればそこそこカワイイし、
現にクラスの連中も、何人かオマエに気があるみたいだからな……」
「『黙ってれば』は余計よ……」
 琉菜は少し怒ったような目でエイジを睨む。
「本当の事じゃねぇか。まあ、そういう事なら別に構やしねぇよ。
じゃあ、さっさとそいつに告白でもなんでもすればいいんじゃねぇの」
エイジはクルリと琉菜に背を向け、わざと素っ気無い話し方をした。何となくこれ以上琉菜の恋愛話を聞きたくなかったのだ。
(クソっ! なんでこんなにムシャクシャするんだよ…………)
 エイジはかなり心が乱れて、冷静な判断が出来なかった。よく考えれば、琉菜の想い人が誰かなど、
簡単に判る事だというのに。琉菜が以前から知っていて、自分も知っている人物。
 琉菜とエイジ共通の男の知人など、斗牙以外ではサンドマンとエイジの友人、高須と大島、
あとは『エイジ自身』だけである。琉菜の口振りから、おのずと答えは導かれそうなものなのであるが、
この時のエイジにはそれが判らなかった。
「告白……するべきかな?」
「知るか! 好きにしろよ」
「判った、そうする……」
 そう言って琉菜は、突然背を向けるエイジに抱きついた。
「な、る、琉菜!?」
 背中から伝わる柔らかい感触に、エイジはどぎまぎしながら振り向いた。
「アタシが好きな人は……あなただよ、エイジ」
「え…………?」
「突然こんな事言われても困るだろうけど……アタシはエイジが好き。アタシが城に戻ってきたのは、エイジがいたから。
エイジにこの気持ちを伝えたかったから。ねぇ、エイジ。アタシ、エイジの事が好き。好きなの…………」
 エイジの体に回された華奢な腕が、小刻みに震えている。
 エイジはその瞬間、自分が琉菜の言葉にあれだけ動揺した理由を理解した。
(そうか、オレは…………)
 エイジは琉菜の腕をそっと解き、再び振り向いて琉菜を正面から見つめた。
 そのクリクリとした大きな瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。
 エイジはそんな琉菜がたまらなく愛おしく感じた。その肩に手を置き、それから力強く琉菜の体を抱きしめた。
「オレも……好きだぜ、琉菜」
「ホント、に…………?」
「ああ。オレも多分、前からオマエの事……気になってたんだと思う。今、それが判ったんだ」
「エイジ…………嬉しい!」
 満面の笑みを浮かべ、琉菜はエイジに抱きついた。その輝かんばかりの琉菜の笑顔。それはエイジの心の一番大事な部分に、
肖像画のように焼き付いた。アヤカ以上に大切な人が生まれた瞬間であった。
そして、その日エイジは初めてサンドマンの事を『兄』と呼んだのであった。


「琉菜、これからどうする? どこか行きたい所とかあるか?」
 (琉菜曰く)デートの定番として行った映画を観終わり、エイジは琉菜に尋ねた。
「アタシはエイジと一緒なら、どこでもいいんだけど……ねぇ、少し街の中をブラブラしようよ。
何かさ、そうしてると、本当に戦いが終わったんだって実感できるの」
「そうだな。オレたちで取り戻した平和だもんな。二人でもう少し満喫するとしようか」
 エイジと琉菜は雑踏の中を気が向くままに歩き周った。

しばらくブラブラしている内に、エイジは不意に誰かの視線を感じた。
 反射的にそちらへ目を向けると、そこには一人の少女が立っていた。
「どうしたの、エイジ?」
 エイジの様子に不審を感じ、琉菜もその視線を追って振り向き、少女と対峙した。
「あ、あんたは…………」
「お久しぶりね、紅エイジ君」
 そこにいたのは、EFAのGソルジャー隊隊長、フェイ・シンルーであった。
「フェイ……だったか?」
「そうよ。覚えててくれて、嬉しいわ」
 言いながらフェイはエイジに近付き、ずいと顔を寄せた。
「今日は休みだったから、ちょっと街をブラついてたんだけど、こんな所で会うなんて偶然ね」
「あ、ああ、そうだな……」
 エイジは少し緊張しながら、思わず身を引く。しかし、それに合わせてフェイがさらに近付く。
「私って友達いないから、こんな時でも一人ぼっちなのよねぇ。前にあなたに言われたように、性格が悪いせいかしら?」
「あ、いや、その……」
 エイジは慰安旅行で行った温泉地で、フェイと交わした会話を思い出す。
「あ、あの時はオレもついカッとなっちまって、その……悪かったな」
「フフ、別に怒ってないわ。むしろ逆。私の周りには、あなたみたいなタイプがいないから、あんな事言われたの初めてだった……。
思った事を、思ったまま伝えられるその真っすぐさ……ちょっと羨ましいわ」
 フェイはさらに一歩前に進む。
「デート中だったの?」
 フェイはチラリと琉菜の方を見る。
「あなたは確か……城 琉菜さん、だったかしら?」
「そうよ……。EFAの将校さん」
「フェイよ。まあ、あなたに名前を覚えてもらおうとも思わないけど」
 フェイは興味を無くしたように琉菜から視線を逸らすと、再びエイジを見つめる。
「そうやって仲良くデートをしている所を見ると、二人は付き合ってるのかしら?」
 ほとんど触れ合わんばかりの距離にまで近付くフェイとエイジの間に、琉菜は強引に割り込んでエイジの腕にしがみついた。
「そうよ! アタシたち、ラブラブなんだから!」
 琉菜はムキになったように言う。フェイの言動に、何か直感的な危機感を感じたのだ。
「そう……。じゃあ、これ以上ジャマするのも悪いわね……」
 そう言いながら、フェイはいきなりエイジの首に手を回し、そのまま唇を重ねた。
「!?」
「!!!!」
 エイジと琉菜は驚愕に目を見開く。
 フェイはそっと唇を放すと、真っ赤になって呆然としているエイジに微笑みかけた。
「今日はこれで失礼するわ。また会いましょう、エイジ君」
 フェイは同じく呆然とする琉菜を見下したような視線で見つめ、その肩に手を置いて耳元でそっと囁いた。
「エイジ君は必ず私のモノにしてみせるわ。EFAの将校としてではなく、一人の女として、ね。
せいぜい奪われないように気をつけなさい。まあ、無駄な努力だけど」
 琉菜はその言葉にハッと我に返り、フェイを睨んだ。
 フェイは馬鹿にするような笑みを浮かべ、そのまま雑踏の中へ消えて行った。
「る、琉菜……その……」
 無言でフェイの消えた方を見つめ続ける琉菜に、エイジはバツが悪そうに声をかける。
 そのエイジを一度キッと睨み、琉菜は無言で歩き出した。
「あ、ちょ、ちょっと待てよ、琉菜!」
 足早に歩く琉菜を、エイジは慌てて追いかけて行く。
「な、なぁ琉菜。もしかして怒ってるのか……?」
 一言も口を利こうとしない琉菜に、エイジはおずおずと話しかけた。
「あ、あれは、その……そう! 不可抗力ってヤツだよ。オレは別に……」
「別に怒ってないわ……」
 エイジの方を見ようともせず、ボソリと琉菜は言う。
「オレが大事なのは琉菜だけだ。だから……」
「怒ってないわよ!!」
 琉菜は立ち止まってエイジに向かって怒鳴った。
「判ってるわよ! アレはあの女が悪いんだって事ぐらい。ただ、ちょっと美人だったからって、
キスされて鼻の下伸ばしてるアンタがムカつくの!!」
「鼻の下なんか伸ばしてねぇっつうの!」
「い〜や、伸びてたわよ。デレデレしちゃって!」
「だから、オレは……」
「じゃあ、キスして!」
「え!?」
 突然の琉菜の言葉に、エイジは二の句が告げなかった。
「アタシにも……キスして。出来ないの?」
「そ、それは……」
 エイジは困ったように頭を掻き、辺りを見回した。街中で繰り広げられている痴話喧嘩に、
通行人たちはさほど興味も無さげに、チラリと一瞥するだけで通り過ぎて行く。
 そんなエイジを怒ったような、すがるような目つきで見つめる琉菜に、やがてエイジは決心を固めた。
「判った……。じゃあ、目を閉じてくれるか? その……さすがに照れる」
「え…………?」
 今度は琉菜が困ったように目を白黒させる。琉菜としては、つい勢いで言ってしまっただけで、
さすがにこんな往来でラブシーンを演じるのは恥ずかしい物があった。
「も、もう! 冗談よ、ジョーダン。本気にしないでよ!」
 照れ笑いを浮かべ、琉菜は足早に歩きだした。
「お、おい、琉菜!」
 何やら肩透かしを食らったエイジは、慌てて琉菜を追った。
(まさか、本気でキスしようとするとは思わなかったわ……)
 高鳴る鼓動を抑えながら、琉菜はチラリとエイジを見る。どうした物か考えあぐねているような表情のエイジに、
琉菜は強い愛情を感じた。
 不意に立ち止まり、エイジの方を見る。
「ねぇ、エイジ。ちょっと耳貸して」
「な、何だよ急に」
「いいから早く!」
「わ、判ったよ……」
 エイジは琉菜の隣に移動し、少し身を屈めて顔を琉菜の方へ近付ける。
 琉菜は耳打ちしようとすると見せかけて……いきなり首に手を回し、唇を重ねた。
「!!!!」
 エイジは、本日2度目の突然のキスに、軽いパニックを起こした。
 唇を離し、神妙な表情をする琉菜に、何か言おうとするが言葉にならない。
「な、な、な…………」
「アタシ、あんな女に負けない。ぜ〜ったいにアンタの事渡したりしないんだから!」
 ニッコリとほほ笑み、腕を絡めてきた琉菜に、エイジはようやく落ち着きを取り戻し、
苦笑いを浮かべた。
「ったく、ああいうダマシ打ちはカンベンしてくれよな」
「てへ、ゴメンね。…………エイジ、好きよ」
「ああ、オレもだ」
 お互いの顔を見合わせ、ニッコリと笑う二人。そして琉菜は今度こそ本当に、そっとエイジに耳打ちした。
「お城に戻ったら……今度はエイジの方から……キス、して…………」


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