Tough Boy!
Tough boy!


「ったく、何でよりにもよってオマエとコンビなんだよ……」
 人気の無い街。エイジはブツブツ文句を言いながら歩いていた。
「し、仕方ないでしょう。個々の能力を考えて、レイヴンが決めたんだから……」
 そのエイジの少し後ろを、ふくれっ面をした琉菜がついて来ている。

 現在、グランナイツの面々は、ゼラバイア反応が感知された街を調査していた。
 比較的大きな街であったが、まるで人の気配がしない。
 そんな街の中を、彼らは作業上の効率を考え、三方に分かれて調査する事にした。
 万が一、敵と遭遇した時のため、一番戦闘能力の高い斗牙に一番戦闘能力の低いリィルを。
 斗牙に次いで戦闘・運動能力の高いエイジとミヅキに、バランスを考慮してそれぞれ琉菜とエィナが同行するよう、レイヴンからの指示が下りた。
 それに従いチーム分けを行って、彼らは調査を開始した。
「それじゃあ、ボクたちは北の方から調べるよ。みんな気をつけて」
 斗牙が優しげな笑みで言う。
「おう、そっちも気をつけろよ。それから、ちゃんとリィルの事守ってやれよ」
 エイジの言葉に、斗牙は笑顔を崩さず答えた。
「わかってるよ。心配しないで」
「ああ、信用してるぜ。リィルも気をつけてな」
「は、はい……」
 リィルは少し頬を赤らめ頷く。それから一瞬悲しそうな瞳でエイジと琉菜を見つめた。
 リィルがエイジに想いを寄せているのを知っているだけに、琉菜は少し胸が痛んだ。
 しかし、琉菜もまたエイジへの想いを自覚したばかりだったので、リィルに悪いと思う反面、嬉しくもあった。
当のエイジは、そんな二人の気持ちには、もちろん気付いていないのだが。

 そうして調査が始まり、二人きりになれたは良いが、いつもの調子でつい喧嘩腰になってしまう。
 琉菜はそんな自分に自己嫌悪しながらも、自分に関心を持たないようなエイジの態度に憮然としながら語りかけた。
「一応アテにはしてるから、もしゼラバイアが出たら、ちゃんと守ってよね」
「『一応』は余計だっつうの。大体、オマエみたいな凶暴女、オレが守らなくても、ゼラバイアの方から逃げ出すっての」
「何ですってぇ〜〜〜〜っ!!」
「なんだよ!!」
「「んぎぎぎぎぎぎぎ…………」」
 歯軋りをするような呻き声を上げ、激しく睨み合う二人。
 琉菜としては、本当はこういう態度は取りたくないのだが、つい意地を張ってしまう。
「「フン!!」」
 お互いに顔を背けると、エイジはスタスタと先を急いだ。
「何よ、人の気も知らないで! エイジのバカ……」
 琉菜は俯いてブツブツ呟きながらエイジの後を追う。
(やっぱり、気の迷いだったのかなぁ? どう考えても斗牙の方がカッコイイし、優しいし。
エイジなんか、おバカだし、ガサツだし、自分勝手だし…………)
 琉菜は脳内で思いつかん限りの罵詈雑言をエイジに浴びせかける。段々と歩速が落ちているのに、まったく気付いていなかった。
「オイ、琉菜!」
「え…………?」
 突然のエイジの声に、琉菜は思考を中断し、ふと顔を上げる。
 いつの間にか足が完全に止まっており、それほど離れていなかったはずのエイジの姿が5メートルほど先にあるのに、ようやく気付いた。
 エイジは呆れたように琉菜を見つめた。
「ったく、何やってんだよ!」
「あ、ご、ごめん……」
 棘のある(ように感じる)エイジの言葉に、琉菜は小走りでエイジに近付く。
 ようやく追いついてきた琉菜を関心無さげに一瞥し、エイジは再び背を向けて歩き出す。
(何よ、その態度! やっぱりエイジなんて……)
 エイジの背中を睨み付ける琉菜の気配に気付いているのか、いないのか、エイジは背を向けたまま口を開いた。
「あんまりオレから離れるなよ。何かあっても間に合わないからな」
 足を止める事なく、エイジはチラリと後ろを振り返った。
 琉菜の表情から、みるみる険が取れていく。
「ゼラバイアは見境無しだからな。凶暴だからって、オマエだけ襲わないって事もねぇだろう。ちゃんと守ってやっから、オレの傍にいろよ」
「『凶暴』は余計よ! でも……ありがとう」
 微笑み返す琉菜に、エイジは少し赤くなりながら慌てて前を向く。
 自分の言葉に照れているのが伝わり、琉菜はクスクスと笑う。
(何だかんだ言っても、ちゃんと心配してくれるんだよね……)
 琉菜は少し歩速を上げ、エイジの隣に並ぶ。
「ねぇ、エイジ。だったらはぐれないように、手を繋いでもいい?」
「な、何言ってやがる!」
「冗談よ。本気にした?」
 エイジは真っ赤になりながら、何か言おうと口をパクパクさせた。
 しかし、結局言葉にならずに顔を背ける。そんなエイジの様子が琉菜の心を温かくする。
「…………エイジはいつでもアタシの事、守ってくれてるよね」
「あん……?」
 琉菜の言葉の意味が判らず、エイジは怪訝な顔をする。
「青い炎に怯えるリィルを助けるために、Gシャドウのコクピットに行こうとした時も、
プレッシャーパンチ発射の瞬間にゼラバイアが攻撃してきた時も、エイジが援護してくれたよね」
「プレッシャーパンチの時は、オマエ後でボロクソに言ってただろが」
「そうだったね、ゴメンゴメン。でも……ちゃんと感謝してるわよ、エイジ」
 琉菜は言いながら、ほんの少しエイジに寄る。二人の距離が、肩が着くか着かないかぐらいまで近付く。
 その時。エイジが不意に足を止めた。釣られて琉菜も足を止める。
「ど、どうしたの、エイジ?」
「霧が……出てきてねぇか?」
「そういえば……」
 琉菜は周りを見回す。確かに乳白色の霧が辺りに立ち込め、加速度的に視界が悪くなる。
「何……この霧…………?」
 またたく間に霧が辺りに充満し、見通しがほとんど利かなくなった。
「こちらエイジ、おい、誰か返事しろ!」
 エイジは通信を試みるが、まったく通じなかった。
「まさか……ジャミング?」
「みたいだな。この霧のせいかよ……」
「じゃあ、これってやっぱり」
「ゼラバイアの仕業だろうな。琉菜、グランフォートレスに戻るぜ」
「うん」
 エイジは急いで今来た道を引き返し始めた。
 1本道を真っ直ぐ歩いてきた筈なのだが、段々と濃さを増してゆく霧に、内心焦りを覚える。
(ヤバいな、このままじゃ道に迷っちまう……)
「ちょ、ちょっと待ってよ、エイジ!」
 背後からの声に、エイジは思考を中断し、足を止めて後ろを振り向く。どうやら琉菜を引き離してしまったようであった。
 霧の向こうから琉菜の声はするが、姿はまったく見えなかった。
「チッ、しまった! 琉菜、どこだーーーーっ!!」
「ここよーーーっ!!」
 前方にボンヤリと人影が浮かぶ。やがて琉菜の姿を何とか確認したエイジは、そちらに向かって走り出す。
「何やってやがる。トロトロしてんじゃねぇよ!」
「アンタが速すぎるのよ! まったく『守ってやる』が聞いて呆れるわ」
「うるせぇ。行くぞ!」
 エイジは再び駆け出そうとするが、思いついたように手を差し出す。
「琉菜、手ぇ出せ」
「え…………?」
 おずおずと差し出された琉菜の手を、エイジは力強く握った。
「エ、エイジ!?」
 いきなり手を繋がれ、琉菜は頬を染めながらエイジを見る。
「こうしてりゃあ、はぐれないし、文句ねぇだろうが。行くぞ!」
 エイジは強引に琉菜の手を引き、霧の中を駆ける。
 そうしている間にも霧は濃度を増し、ほとんど何も見えない状態になった。
 すぐ前にいるはずのエイジの姿ですら、霧に阻まれうっすらとしか見えない。
 まるで自分だけが世界から切り離されたかのような錯覚を覚える。
 しかし、琉菜は不思議と不安も無く、むしろ安堵の気持ちを抱いていた。
 自分の手を包むエイジの力強さと温もりが、琉菜の心に安らぎを与えていた。
「ずっとこのままでいられたら良いのに……」
 非常事態だというのに、琉菜はついそんな事を口走ってしまう。
「あ? 何か言ったか?」
「え! あ、うぅん、何でもない!」
「そうか? ならいいけどな」
 エイジは言いながら足を止めた。
「ど、どうしたの?」
 琉菜はエイジの傍に寄り、不安そうにその顔を見上げる。
「ヤベェ……完全に視界を塞がれちまった」
 エイジは緊張した面持ちで周囲を眺める。
 完全に霧に閉ざされてしまい、ただただ白色の世界が広がっている。
「そろそろグランフォートレスが着陸した場所のハズなんだが……。! 琉菜!?」
 エイジは不意に言葉を切ると、突然琉菜に抱きついた。そのまま押し倒すように地面に転がる。
「な、な、な、何するのよ、このスケベ!」
 あまりに突然の出来事だったため、琉菜は反射的にエイジの顔面に拳をめり込ませた。
 しかし、次の瞬間、琉菜は驚愕に目を見開いた。何か巨大な物が自分たちの頭があった場所を横切ったのだ。
「痛ぇな! 助けてやったのに、何しやがる!」
「い、いきなり抱きつかれたら、誰だって驚くわよ!」
 言い合いしながらも、二人は前方に最大限の注意を向け、油断なく立ち上がる。
 霧の向こうにいた物。それは、蟹と蠍を掛け合わせたような、不気味な生物であった。
「ゼラバイア…………」
 琉菜の双眸に恐怖の色が浮かぶ。そこには紛れもなくソルジャー級ゼラバイアの姿があった。
 エイジと琉菜はガンブレイドを取り出し、ガンモードでゼラバイアに一斉射する。
 銃口から放たれた重力子弾は、ゼラバイアの巨体にことごとく命中するが、ほとんどダメージを与えていなかった。



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