Tough Boy!
Tough boy!


「チッ! 効いてねぇ!!」
 それでも銃口を向けるエイジに、ゼラバイアは蟹のような巨大な鋏状の腕を振り下ろす。
"ドガッ"という凄まじい音と共に、足元のアスファルトがゴソリと抉られる。
「ゲッ! マジかよ……」
 その破壊力に、エイジは肝が冷える思いであった。
 さらに鋏を振り上げ迫り来るゼラバイアに、エイジは重力子弾を連射しながらジリジリと後退する。
「もう目の前なのに……」
 琉菜はゼラバイアの後方に視線をやり、歯軋りする思いを抱く。霧の向こうに、グランフォートレスのシルエットが、薄らと確認出来ているのだ。
距離にしてみれば10メートルも離れていない。
 しかし、エイジならともかく、琉菜の運動能力では、ゼラバイアの攻撃をかい潜ってグランフォートレスに辿り着くのは至難の業と言えよう。
 しかも、激しい銃声が聞こえてくる事から、あちらも交戦状態に入っているのが推測される。
 だが、琉菜は覚悟を決めたようにエイジに言った。
「エイジ、アタシが囮になるから、その隙にグランフォートレスに行って!」
 しかし、そんな琉菜を、エイジは怒ったような怖い顔で睨み付けた。
「バカヤロー! 女をオトリになんて出来るか!! 危ない目に遭うのは男の役目だ。オレがゼラバイアを引きつける。その間にグランフォートレスに乗り込め!!」
 エイジは重力子弾を連射しながら、琉菜から距離を取るように移動する。
「エイジ!」
「早く行け!」
 エイジは叫びながら銃を撃ち続ける。
 琉菜は悩みながらも、エイジの行動を無駄にしない為、急いで尚且つ慎重に足を進めた。
 エイジに気を取られているゼラバイアの横を抜け、琉菜は彼方にボンヤリ見えるグランフォートレスに向かって駆け出す。
 しかし、二人は大きなミスを犯した事に気付かなかった。
 突然、琉菜の視界に大きな壁が出現した。
「え……?」
 呆然と壁を見上げた琉菜は、霧の向こうで不気味に輝く四つの瞳を見た。
「ゼ、ゼラバイア!?」
 一瞬、琉菜はエイジを倒したゼラバイアが自分を追って来たのかと思ったが、先刻から途切れる事の無い銃声と、エイジの怒号がそれを否定する。
 そこで琉菜は自分たちのミスに思い至った。敵はソルジャー級ゼラバイア。今、襲い掛かってきている『それ』が、一体であるはずはないのだ。
現にグランフォートレスの方からも、銃声がまったく途切れない。自分たちを襲ったゼラバイアが二体であっても、何の不思議も無かった。
 目前のゼラバイアが鋏状の腕を振り上げる。しかし、琉菜は動けなかった。
 すでに逃げるにも、かわすにも、手遅れである事を悟ったからである。
「エイ……ジ…………」
 どうにも出来ない状態に諦観を持った琉菜は、涙で霞む目をキツく瞑り、少しでも苦痛の少ない死を願うだけであった。
 だが、視界の隅にもう一体のゼラバイアの影を確認したエイジは、決して諦めていなかった。
「琉菜!」
 エイジは目前のゼラバイアを振り切り、一目散に琉菜の元へ向かう。
「でぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」
 走りながらガンブレイドをエッジモードに切り替え、重力子の刃でゼラバイアの腕を根元から断ち切った。
「琉菜!」
 エイジはもう一度呼びかける。その声に琉菜は恐る恐る目を開いた。そこには自分を庇うように立ち、刃を構えるエイジの背中があった。
「エイジ…………」
「何をボサッとしてやがる!? さっさと…………」
 叱咤するエイジの言葉が途中で止まり、その表情に驚愕が浮かぶ。蠍のそれを思わせる巨大な尾が、今まさに横薙ぎに迫っていたのだ。
「しま…………」
 次の瞬間、強烈な尾の一撃を脇腹に受け、エイジは体ごと吹き飛ばされた。
 エイジは苦痛に顔を歪め、自分が飛ばされている方向を見た。その視線の先にはスーパーマーケットのガラス戸があり、それがグングン近付いて来る。
 エイジは反射的に頭を庇い、ガラス戸に突っ込んだ。
「エイジ!!」
 ガラスの砕ける音にハッとした琉菜は、急いでエイジの元に向かおうとしたが、その行く手をゼラバイアが塞ぐ。
「ジャマしないでよ!!」
 琉菜は重力子弾を連射するが、やはり効果がほとんど無い。そうこうしている内に、最初の一体もこちらに近付いて来た。琉菜は進路も退路も断たれた形になってしまう。
 腕を切り落とされたゼラバイアが、もう一方の腕を振り上げる。琉菜はその姿を睨み付けたまま、重力子弾を撃ち続ける。
 その腕を振り下ろそうとした瞬間、ゼラバイアは巨大な『何か』に上から押し潰された。
「え……?」
 琉菜は銃を撃つ手を止め、呆然と潰れたゼラバイアを見つめた。次の瞬間には、背後に迫っていた、もう一体のゼラバイアも潰された。
 琉菜は眼前の巨大な影を見上げた。そこには巨人が立っていた。緑に輝く瞳で琉菜を見下ろす青い巨人。
「グランカイザー!!」
 琉菜の顔に安堵の笑みが浮かぶ。
「大丈夫か、琉菜?」
少し冷たさを感じさせる、戦闘モードの斗牙の声が、Gコールを通じて聞こえてくる。
さすがにこの距離だと、ジャミングも効果が無いようである。
「う、うん。ありがとう、斗牙!」
「現在、エィナがスタンバイしている。早くGドリラーに搭乗しろ!」
「ちょ、ちょっと待って! エイジが……ケガしてるかもしれないの!」
「…………!!」
 Gコールから、息を呑む斗牙の気配が伝わる。
「少しだけ時間をちょうだい。エイジを助けないと……」
「……判った。エイジの事は任せる。グランフォートレス、琉菜とエイジの反応は補足したか?」
 斗牙はグランフォートレスに通信を入れる。
「はい、斗牙様。ジャミングの原因の霧が薄くなってきましたので、何とかお二人の反応を捕らえました。これより、そちらに向かいます」
 グランフォートレスに群がっていたゼラバイアを倒し、指令室に戻っていたクッキーがその通信に答える。
「よし。Gドリラー、Gストライカー、Gシャドウ、これよりゼラバイアの殲滅にあたる!」
「「「了解!」」」
 斗牙の指示を受け、すでにグランディーヴァに乗り込んでいた面々が出撃する。
 その様子をサンジェルマン城の司令室から補足しているテセラが声を上げた。
「ジャミングフィールドが急速に消滅しています!」
 続いてマリニアが報告する。
「ゼラバイア反応、一箇所に集中しています! これは……」
「合体してますぅ〜!」
 チュイルの報告に、レイヴンが小さく舌打ちする。
「デストロイヤー級に合体して、一気にケリをつけるつもりか。トリア、ファントムシステムは使えないのか?」
 司令室のモニターに、整備ドッグにいるトリアの映像が浮かぶ。
「申し訳ありません。現在、システムの改良をしていまして、グランディーヴァに接続していないんです!」
 己のミスを悔いるようにトリアが言う。
「くっ……! サンドマン!」
 レイヴンはサンドマンの指示を仰ぐように視線を送る。サンドマンはモニターを静かに眺め、
憂いのある瞳を少し細めた。
「今は……我らが騎士たちの力を信じよう」
「はっ! 琉菜、急げ!!」
「わかってるわ!」
 レイヴンの指示を受けるまでもなく、琉菜はエイジの元へ急いでいた。割れたガラス戸をくぐり、店の中に入る。
「エイジ! どこにいるの!? エイジ!!」
 薄暗く滅茶苦茶に荒れ果てた店内で、琉菜は声の限りにエイジを呼んだ。その声に反応してか、前方の棚の辺りで何かが動いた。
 琉菜はビクリと体を震わせ、そちらに注意を向ける。ゼラバイアが潜んでいる可能性は無いとは言えない。
 だが、すぐに琉菜は緊張を解いた。そこにエイジの姿を認めたのである。
「エイジ!!」
 琉菜は大急ぎでエイジに近付いた。
「そんなデケェ声出さなくても、聞こえてるよ……」
 脇腹を押さえ、弱々しい声を出しながら、エイジは顔を琉菜の方へ向けた。
 駆け寄ろうとした琉菜は、そのエイジの顔を見て思わず足を止める。
「エイジ……血が……」
 琉菜は二の句が告げられなかった。眼前のエイジは血塗れであったのだ。
 右の瞼の上辺りがザックリと裂け、そこから夥しい量の血が流れ出していた。
「突っ込んだ時に、ガラスで切ったみたいだな。どうって事ねぇよ……」
「そんなワケないじゃない! 早く手当てしないと!!」
 琉菜は辺りを見回し、手当てに使えそうな物を探した。場所がマーケットだったのが幸いし、包帯やガーゼ、消毒液など、治療道具はすぐ見つかった。
 琉菜は消毒液を染み込ませたガーゼで傷口を拭う。しかし、いくら拭いても、次々と血が溢れ出した。
「どうしよう……血が止まらないよぉ……」
 琉菜は泣きそうになりながらも、ガーゼで傷口を押さえる。白いガーゼがみるみる朱に染まっていく。
「エイジ様! 琉菜様!」
 入り口の方から声がする。そちらを見ると、クッキーが駆け寄って来る所だった。
「クッキー、血が……血が止まらないの! このままじゃ……エイジが死んじゃう!!」
 やや取り乱した様子の琉菜を優しく見つめ、クッキーはエイジの傷を検めた。
「かなり大きな傷ですね……」
 クッキーは携えていた箱を開き、中から何かの瓶を取り出した。
「ディカ特製の止血ジェルです。少し痛みますが、我慢してくださいね。」
 クッキーはグローブを外し、瓶の中のジェルを手に取った。そして、エイジの傷口を埋めるように、ジェルを伸ばしてゆく。
「っ痛ぇ!!」
「男の子なんですから、我慢してください!」
 クッキーはエイジを優しく叱咤し、傷口にガーゼを当て、絆創膏で固定した。



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