Tough Boy!
Tough boy!


「これで大丈夫です。さあ、一度城に戻りましょう。その傷は縫わないといけませんからね」
「城に戻るのはゼラバイアを倒した後だ」
 エイジはゆっくりと立ち上がり外へ向かう。
「いけません! 今の手当てはあくまで応急処置です! ヘタをすると、また出血するかもしれないのですよ!!」
 クッキーの言葉に、エイジはそれでも自分を曲げない。
「今、城に戻ってる余裕はねぇ。見ろ!」
 エイジは外を指差した。
 その先で、今まさにグランカイザーとゼラバイアが戦闘を行っていた。
 デストロイヤー級ゼラバイアに決定打を与えられず、グランナイツの面々は苦戦を余儀なくされていた。
「オレが城に戻ったせいで、他の誰かが犠牲になるかもしれねぇ。そんなの……耐えられねぇよ」
 エイジは搾り出すように言う。それは、いつも仲間を案じているエイジらしい言葉であった。
「エイジ…………」
 Gコールからサンドマンの声が響く。
「サンドマンか? 待たせたな、すぐに出撃するぜ!」
「エイジ……私はお前を信じよう。だから……必ず生きて戻って来るのだぞ」
「あたぼうよ! 琉菜、行くぜ!」
「あ…………うん!」
 エイジは琉菜を伴い、店のすぐ外に停められていたグランフォートレスに向かう。
 その足で格納庫へ急ぎ、Gアタッカーの座席に座る。
「琉菜、ドリラーまで送ってやる。後ろに乗れ」
「うん……」
 琉菜はバイクの二人乗りのようにエイジの後ろに腰掛け、そっと腰に手を回す。
「Gアタッカー、出撃する!!」
 格納庫から飛び出したGアタッカーは、真っ直ぐに戦場へ向かった。
「斗牙、リィル、ミヅキ、エィナ、待たせたな!」
 エイジは通信回線を開き、仲間たちに声をかける。
「エイジ……。まったく、女を待たせるなんて、マナー違反よ」
 ミヅキが軽口を叩く。
「エイジさま〜、琉菜さま〜、ご無事だったんですねぇ〜」
 泣きそうな声でエィナが言う。
「エイジさん……大丈夫なんですか……?」
 心の底から心配している様子でリィルが問う。
「エイジ……信じてたよ」
 戦闘時の冷たい声ではなく、いつもの優しげな声で斗牙がほほ笑む。
「へ! 待たせた分、キッチリ働かせてもらうぜ! エィナ、今からそっちに琉菜が乗り移る。
準備してくれ!」
「は、はい〜了解です〜」
 エィナはGドリラーのスピードを緩め、Gアタッカーに近付いた。ほぼ真上に移動したアタッカーのキャノピーが開き、琉菜が乗り移る準備をする。
「落ちてケガすんなよ」
「エイジこそ……気をつけて……」
 琉菜はエイジの体をギュっと抱きしめたい衝動に駆られるも、すぐに気持ちを切り替えてGドリラーのコクピットに乗り込んだ。
「エィナ、ゴメンね!」
「琉菜さま〜〜〜〜」
 エィナは眼鏡の下の瞳に涙を浮かべながらも、安堵の笑みを浮かべる。

そして、戦場に6人のグランナイツが集合したのを確認したサンドマンは、司令室の座席から立ち上がり、手にした杖を掲げ、あたかも大見得を切るようにモニターを指した。
「グランナイツの諸君、合神せよ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
 サンドマンの指示に、グランナイツは合神フォーメーションに入った。
「エルゴフォォォォォォォォォムッ!!!!」
グランカイザーのエルゴフォームのロックが解除され、球状の重力フィールドが形成された。
 そのフィールド内にグランディーヴァがグランカイザー目掛けて『落ちて』ゆく。
「超重、合神!!」
 斗牙は合体キーワードを叫ぶと共に、正面のパネルにGコールを接続した。
 グランカイザーとグランディーヴァは変形を開始し、次々と合体してゆく。
 二つに分割されたGドリラーが、腕を畳んで肩パーツに変形したグランカイザーに合体し、一対の腕と化す。そしてGストライカーが変形し、カイザーの左足となる。
 次にGアタッカーが右足として合体するのだが、エイジは初めての合神の時のように、視界が急激に暗くなるのを感じ、狼狽した。
「何!? こなくそぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 エイジは強引に目を見開き、半ば条件反射となった動きでアタッカーを突っ込ませた。
 カイザーの右足とアタッカーが無事接続される。
 立て続けにGシャドウがカイザーの胸を覆うように合体し、カイザー頭部から角が飛び出し、顔全体を装甲が覆う。
 重力フィールドが割れ、中から青き巨体が姿を現した。
 地球を守る、人類最後の希望。超重の巨神、その名はゴッドグラヴィオン。

 対峙する巨神と魔獣。
 その巨神を操る者、斗牙は並々ならぬ闘志を秘めた瞳でゼラバイアを睨む。
「レフトドリラーコクピット、プレッシャーパンチ、スタンバイ!」
「了解!」
 斗牙の指示を受け、琉菜はコンソールを操作し、プレッシャーパンチ発射の準備をする。
 座席背面から安全バーが現れ、ボルト式のロックで体が固定された。
 その一連の動作に連動し、グラヴィオンの爪先部分が展開、接地面積を拡げ、ふくらはぎ部分から飛び出した杭が地面に深々と突き刺さり、
グラヴィオンの体をしっかりと固定した。
 発射体勢が整い、ゼラバイアに向けて突き出された腕に内蔵された、四基のバーニアに火が灯る。
「グラヴィトン・プレッシャーーーーーッ!」
「パァーーーーーーンチッ!!」
 斗牙の声と共に、琉菜はプレッシャーパンチを発射した。
 鋼鉄の弾丸と化した前腕部がゼラバイア目掛けて突撃する。
 しかし、そこで予想外の出来事が起こった。
 プレッシャーパンチ着弾の瞬間、デストロイド級ゼラバイアの巨体が、無数のソルジャー級ゼラバイアに分解したのである。
「何!?」
 斗牙は眉間に皺を寄せ、険しい表情でモニターを睨む。
 プレッシャーパンチを操る琉菜もまた面食らった。
 何体かはパンチで潰したような衝撃を感じたが、このような方法で回避されたのは初めてであった。
 グラヴィオンの腕からビームワイヤーが伸び、プレッシャーパンチを回収すると、再び対峙する。
 ゼラバイアも再び合体を開始するが、その一部がそのままグラヴィオンに向かってきた。
「くっ!」
 斗牙は飛びかかってくるゼラバイアに向かって、払い除けるように腕を振るった。
 その動きにシンクロし、グラヴィオンも腕を振るう。
 だが、この行動がグラヴィオンを更なる窮地に追い込んだ。鋼の右腕が触れた瞬間、ゼラバイアが爆発したのである。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
 右腕に乗っているエィナが思わず悲鳴をあげる。
「くぅっ!」
 斗牙は右腕に走る痛みに表情を曇らせた。

「何だ! 何が起こった!?」
 指令室で戦況を見守っていたレイヴンが声を荒げた。
「分析結果出ます! こ、これは……」
 思わず口ごもるテセラに代わり、マリニアが報告した。
「あのゼラバイアは、一種の生体ミサイルのようです!」
「自律型の爆弾に進化したゼラバイアだとでも言うのか!?」
 レイヴンは舌打ちし、モニターを睨む。
「今の攻撃で、臨界ポイントまで7526です!」
 チュイルは現在の重力子ポイントを報告し、祈るような眼差しでモニターを見た。
(エイジさま……)
 エイジの身を案じるチュイルの姿は、オペレーターではなく、一人の恋する乙女の物であった。

 戦場では、再び爆弾ゼラバイアがグラヴィオンに飛び掛って来た。
「アタッカーコクピット、グラヴィトン・ミサイル斉射!」
 斗牙は素早くエイジに指示を出す。しかし、エイジはそれに答えなかった。
「どうした、アタッカーコクピット! 何をしている!?」
 迎撃のミサイルが発射されない為、ゼラバイアはグラヴィオンの全身に取り付き、一斉に爆発した。
 一つ一つの破壊力は大きくないが、何体ものゼラバイアが同時に爆発するので、さすがのグラヴィオンもその巨体を揺らがせる。
「ちょっと、エイジ! 何やってるのよ!?」
 通信回線を開き、ミヅキはエイジに怒鳴った。しかし、やはりエイジは答えない。
 不審に思った全員がGアタッカーのコクピットをモニターに映した。
「エイジ!?」
 そこに映ったエイジの姿に、琉菜は悲鳴を上げた。
 エイジはコクピットシートの上でうつ伏せるようにグッタリとしていた。
「エイジ、どうしたの!? エイジ!!」
「エイジさん! しっかりしてください、エイジさん!!」
 必死に呼びかける琉菜とリィルの声に、ようやくエイジはゆっくりと顔を上げた。



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