Tough Boy!
Tough boy!
3
「これで大丈夫です。さあ、一度城に戻りましょう。その傷は縫わないといけませんからね」
「城に戻るのはゼラバイアを倒した後だ」
エイジはゆっくりと立ち上がり外へ向かう。
「いけません! 今の手当てはあくまで応急処置です! ヘタをすると、また出血するかもしれないのですよ!!」
クッキーの言葉に、エイジはそれでも自分を曲げない。
「今、城に戻ってる余裕はねぇ。見ろ!」
エイジは外を指差した。
その先で、今まさにグランカイザーとゼラバイアが戦闘を行っていた。
デストロイヤー級ゼラバイアに決定打を与えられず、グランナイツの面々は苦戦を余儀なくされていた。
「オレが城に戻ったせいで、他の誰かが犠牲になるかもしれねぇ。そんなの……耐えられねぇよ」
エイジは搾り出すように言う。それは、いつも仲間を案じているエイジらしい言葉であった。
「エイジ…………」
Gコールからサンドマンの声が響く。
「サンドマンか? 待たせたな、すぐに出撃するぜ!」
「エイジ……私はお前を信じよう。だから……必ず生きて戻って来るのだぞ」
「あたぼうよ! 琉菜、行くぜ!」
「あ…………うん!」
エイジは琉菜を伴い、店のすぐ外に停められていたグランフォートレスに向かう。
その足で格納庫へ急ぎ、Gアタッカーの座席に座る。
「琉菜、ドリラーまで送ってやる。後ろに乗れ」
「うん……」
琉菜はバイクの二人乗りのようにエイジの後ろに腰掛け、そっと腰に手を回す。
「Gアタッカー、出撃する!!」
格納庫から飛び出したGアタッカーは、真っ直ぐに戦場へ向かった。
「斗牙、リィル、ミヅキ、エィナ、待たせたな!」
エイジは通信回線を開き、仲間たちに声をかける。
「エイジ……。まったく、女を待たせるなんて、マナー違反よ」
ミヅキが軽口を叩く。
「エイジさま〜、琉菜さま〜、ご無事だったんですねぇ〜」
泣きそうな声でエィナが言う。
「エイジさん……大丈夫なんですか……?」
心の底から心配している様子でリィルが問う。
「エイジ……信じてたよ」
戦闘時の冷たい声ではなく、いつもの優しげな声で斗牙がほほ笑む。
「へ! 待たせた分、キッチリ働かせてもらうぜ! エィナ、今からそっちに琉菜が乗り移る。
準備してくれ!」
「は、はい〜了解です〜」
エィナはGドリラーのスピードを緩め、Gアタッカーに近付いた。ほぼ真上に移動したアタッカーのキャノピーが開き、琉菜が乗り移る準備をする。
「落ちてケガすんなよ」
「エイジこそ……気をつけて……」
琉菜はエイジの体をギュっと抱きしめたい衝動に駆られるも、すぐに気持ちを切り替えてGドリラーのコクピットに乗り込んだ。
「エィナ、ゴメンね!」
「琉菜さま〜〜〜〜」
エィナは眼鏡の下の瞳に涙を浮かべながらも、安堵の笑みを浮かべる。
そして、戦場に6人のグランナイツが集合したのを確認したサンドマンは、司令室の座席から立ち上がり、手にした杖を掲げ、あたかも大見得を切るようにモニターを指した。
「グランナイツの諸君、合神せよ!」
「「「「「「了解!!」」」」」」
サンドマンの指示に、グランナイツは合神フォーメーションに入った。
「エルゴフォォォォォォォォォムッ!!!!」
グランカイザーのエルゴフォームのロックが解除され、球状の重力フィールドが形成された。
そのフィールド内にグランディーヴァがグランカイザー目掛けて『落ちて』ゆく。
「超重、合神!!」
斗牙は合体キーワードを叫ぶと共に、正面のパネルにGコールを接続した。
グランカイザーとグランディーヴァは変形を開始し、次々と合体してゆく。
二つに分割されたGドリラーが、腕を畳んで肩パーツに変形したグランカイザーに合体し、一対の腕と化す。そしてGストライカーが変形し、カイザーの左足となる。
次にGアタッカーが右足として合体するのだが、エイジは初めての合神の時のように、視界が急激に暗くなるのを感じ、狼狽した。
「何!? こなくそぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
エイジは強引に目を見開き、半ば条件反射となった動きでアタッカーを突っ込ませた。
カイザーの右足とアタッカーが無事接続される。
立て続けにGシャドウがカイザーの胸を覆うように合体し、カイザー頭部から角が飛び出し、顔全体を装甲が覆う。
重力フィールドが割れ、中から青き巨体が姿を現した。
地球を守る、人類最後の希望。超重の巨神、その名はゴッドグラヴィオン。
対峙する巨神と魔獣。
その巨神を操る者、斗牙は並々ならぬ闘志を秘めた瞳でゼラバイアを睨む。
「レフトドリラーコクピット、プレッシャーパンチ、スタンバイ!」
「了解!」
斗牙の指示を受け、琉菜はコンソールを操作し、プレッシャーパンチ発射の準備をする。
座席背面から安全バーが現れ、ボルト式のロックで体が固定された。
その一連の動作に連動し、グラヴィオンの爪先部分が展開、接地面積を拡げ、ふくらはぎ部分から飛び出した杭が地面に深々と突き刺さり、
グラヴィオンの体をしっかりと固定した。
発射体勢が整い、ゼラバイアに向けて突き出された腕に内蔵された、四基のバーニアに火が灯る。
「グラヴィトン・プレッシャーーーーーッ!」
「パァーーーーーーンチッ!!」
斗牙の声と共に、琉菜はプレッシャーパンチを発射した。
鋼鉄の弾丸と化した前腕部がゼラバイア目掛けて突撃する。
しかし、そこで予想外の出来事が起こった。
プレッシャーパンチ着弾の瞬間、デストロイド級ゼラバイアの巨体が、無数のソルジャー級ゼラバイアに分解したのである。
「何!?」
斗牙は眉間に皺を寄せ、険しい表情でモニターを睨む。
プレッシャーパンチを操る琉菜もまた面食らった。
何体かはパンチで潰したような衝撃を感じたが、このような方法で回避されたのは初めてであった。
グラヴィオンの腕からビームワイヤーが伸び、プレッシャーパンチを回収すると、再び対峙する。
ゼラバイアも再び合体を開始するが、その一部がそのままグラヴィオンに向かってきた。
「くっ!」
斗牙は飛びかかってくるゼラバイアに向かって、払い除けるように腕を振るった。
その動きにシンクロし、グラヴィオンも腕を振るう。
だが、この行動がグラヴィオンを更なる窮地に追い込んだ。鋼の右腕が触れた瞬間、ゼラバイアが爆発したのである。
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
右腕に乗っているエィナが思わず悲鳴をあげる。
「くぅっ!」
斗牙は右腕に走る痛みに表情を曇らせた。
「何だ! 何が起こった!?」
指令室で戦況を見守っていたレイヴンが声を荒げた。
「分析結果出ます! こ、これは……」
思わず口ごもるテセラに代わり、マリニアが報告した。
「あのゼラバイアは、一種の生体ミサイルのようです!」
「自律型の爆弾に進化したゼラバイアだとでも言うのか!?」
レイヴンは舌打ちし、モニターを睨む。
「今の攻撃で、臨界ポイントまで7526です!」
チュイルは現在の重力子ポイントを報告し、祈るような眼差しでモニターを見た。
(エイジさま……)
エイジの身を案じるチュイルの姿は、オペレーターではなく、一人の恋する乙女の物であった。
戦場では、再び爆弾ゼラバイアがグラヴィオンに飛び掛って来た。
「アタッカーコクピット、グラヴィトン・ミサイル斉射!」
斗牙は素早くエイジに指示を出す。しかし、エイジはそれに答えなかった。
「どうした、アタッカーコクピット! 何をしている!?」
迎撃のミサイルが発射されない為、ゼラバイアはグラヴィオンの全身に取り付き、一斉に爆発した。
一つ一つの破壊力は大きくないが、何体ものゼラバイアが同時に爆発するので、さすがのグラヴィオンもその巨体を揺らがせる。
「ちょっと、エイジ! 何やってるのよ!?」
通信回線を開き、ミヅキはエイジに怒鳴った。しかし、やはりエイジは答えない。
不審に思った全員がGアタッカーのコクピットをモニターに映した。
「エイジ!?」
そこに映ったエイジの姿に、琉菜は悲鳴を上げた。
エイジはコクピットシートの上でうつ伏せるようにグッタリとしていた。
「エイジ、どうしたの!? エイジ!!」
「エイジさん! しっかりしてください、エイジさん!!」
必死に呼びかける琉菜とリィルの声に、ようやくエイジはゆっくりと顔を上げた。
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