Tough Boy!
Tough boy!


「エイジ……!?」
 そのエイジの姿に、全員が息を呑んだ。額の傷から再び出血しており、絆創膏から滲み出た血が、顔の右半分を朱に染めていたのである。
「悪ぃ、みんな。ちょいとボーッとしちまった」
 エイジは空元気を出して答えるが、血に塗れたその顔では、痛々しさが増すだけであった。
「エイジさん、血が……」
 蒼褪めた顔のリィルが、モニターを通して見つめる。
 エイジは乱暴に血を拭うと、弱々しいながらも笑みを浮かべた。
「心配すんな、リィル。どうって事ねぇよ」
「でも……」
「大丈夫だって。ちょっと血が出てるだけだからよ」
 エイジは優しくほほ笑み、沈痛な面持ちでこちらを見ている斗牙に話しかけた。
「悪いな、斗牙。今度はちゃんとやるから、さっさとカタづけちまおうぜ!」
「……本当に大丈夫なのか?」
 冷たい眼差しで見つめる斗牙。エイジはそれを真っ向から見つめ返した。
「ああ、大丈夫だ。オレのタフさはオマエも知ってるだろ?」
「…………判ったよ。でも、無理はしないで、エイジ」
 斗牙は非戦闘時の優しい笑顔を一瞬浮かべ、すぐにサンジェルマン城のサンドマンへ通信を送った。
「サンドマン、超重剣を!」
 瞬間、僅かに顔を曇らせたサンドマンだったが、いつもの冷静な表情で立ち上がった。
「超重剣、招来!」
 サンドマンの声に導かれるように、天空の彼方から一振りの剣がグラヴィオンの元へ召喚された。全てを断つ『しろがねの牙』その名を超重剣。
 グラヴィオンは剣の柄をしっかりと両手で掴む。その瞬間、凄まじいエネルギーのスパークが巻き起こり、重力子循環の加速度が増した。
 保護用のフェイスガードが顔の下半分を覆い、その切っ先をゼラバイアに向けた。
「エルゴ・ストォォォォム!!」
 超重剣から放たれた重力子の嵐がゼラバイアを包み、その巨体を空中に舞い上げた。グラヴィオンは背部バーニアを全開し、ゼラバイア目掛けて跳躍する。
「超、重、ざぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 振り下ろされた刃がゼラバイアを周囲の空間ごと斬り裂き、同時に重力子がエルゴフィールドを形成する。
「エルゴ、エンド……」
瞬間、フィールド内で凄まじい爆発が巻き起こり、断たれた空間が元に戻る際、フィールドごとゼラバイアの起こした爆発を吸引した。
 静寂が戻ると同時にグラヴィオンは大地に降り立つ。
「ゼラバイア消滅、臨界ポイントまで3255です」
 エィナの報告に、グランナイツ全員が緊張を解いた。しかし、テセラが慌てた様子で通信を入れてきた。
「ゼラバイア反応、消えてません! まだ生きてます!!」
「何!」
 いつも冷静な戦闘モードの斗牙が、珍しく驚愕の表情を浮かべる。前方に倒したはずのゼラバイアが再び姿を現したのである。
「バカな! どういう事だ!?」
 レイヴンもやや冷静さを失い、オペレーターメイド達に詰め寄った。
「検査結果出ました。あのゼラバイアは、コアを中心に合体したソルジャー級ゼラバイアで構成されています。
おそらく、コアが無事である限り、何度でも再生・合体が可能なのではないかと……」
 マリニアが緊張した面持ちで答える。
「では、さっきの超重斬は……」
「おそらく、エルゴストームに巻き込まれる直前に、コアだけを脱出させていたのだろう……」
 サンドマンは冷静に答えるが、その表情には焦りの色が浮かんでいるのにレイヴンは気付いていた。
「重力子臨界ポイントまで2977! これ以上の戦闘は危険です!」
 緊迫した表情でマリニアが報告する。レイヴンは仮面の下に苦悩の色を浮かべ、決断を下す。
「止むを得ん。斗牙、撤退だ!」
 レイヴンの命令に斗牙は迷う。その隙にエイジは通信に割り込んだ。
「ざけんな! シッポを巻いて逃げ出せってのか!?」
「状況を考慮しての戦略的撤退だ。戦闘中に合神が解除されたら、お前たちの命に関わる。それに、お前の体も限界の筈だ」
「勝手に決めつけんな! オレはまだやれる!!」
「脂汗を流しながら強がりを言っても説得力は無い!」
 レイヴンは慌てて手の甲で汗を拭うエイジを、冷ややかに見つめる。
「エイジ、お前どこか別の箇所も負傷しているな? そんな体でこれ以上戦闘が続けられると思っているのか?」
「く……」
 レイヴンの指摘に、エイジは言葉に詰まった。そして琉菜は何かに思い至り、おずおずと口を開いた。
「エイジ……さっきアタシを庇った時…………」
 琉菜は今にも泣きそうな顔で、モニターの中のエイジを見る。
 血の気を失い、蒼白くなった顔に脂汗を滲ませ肩で息をしている。その姿に琉菜は胸が張り裂けそうになる。
「大丈夫だって言ってんだろ! そんな顔するなって!!」
 怒鳴るようにエイジはモニターに向かって叫ぶ。
「エイジさん、一度撤退しましょう……」
 リィルも泣きそうな顔でエイジを見る。
「リィルまでそんな顔するなって。前にも言ったろ? リィルは笑った顔の方がカワイイって……」
 エイジはそう言ってニッコリと笑う。リィルはその笑顔と言葉に頬を染め、ときめく胸を押さえた。エイジが心配なのは確かなのだが、
“カワイイ”と言われて、つい嬉しくなってしまう。
 しかし、口元が綻びそうになった瞬間、エイジの額から流れる血にハッとなり、また悲しそうな表情を浮かべた。
「やっぱり……お城に戻りましょう。その傷の手当てをしないと、エイジさんが……死んじゃう……。そんな事になったら、わたし……わたし…………」
 リィルは両肩を抱き、わなわなと震えた。その頬に一筋の涙が流れた。さすがにエイジの胸に罪悪感が芽生える。しかし、エイジは言った。
「ゴメンな、リィル。心配してくれるのは嬉しいけど、アイツを倒さねぇと……。オレなら大丈夫だ、信じろ!」
 優しい眼差しでリィルを見つめるエイジ。切ない眼差しでエイジを見つめ返すリィル。その二人の様子に、そっと唇を噛む琉菜。
「ねえ、エイジ。どうして今回はそんなに戦う事に拘るの?」
 そんな3人の空気を察してか否か、ミヅキが言葉を挟んだ。
「…………見ちまったからだよ」
「見たって何を?」
「オマエら……この街に来た時、何も感じなかったのか?」
 今しがたリィルに向けた物とは正反対の、暗い眼差しでエイジはモニターの仲間たちを見た。
「こんなデカイ街に人っ子一人いない。いたのはゼラバイアだけ。つまり、この街の人間はゼラバイアに皆殺しにされたって事だろ……」
 エイジはポツリポツリと言葉を繋ぐ。
「さっき琉菜を庇って戦ってた時、オレは見たんだよ。道端に落ちていた、血塗れのぬいぐるみを! 小さな子供が持ってるようなぬいぐるみだぞ?
あんなモン見せられて、目の前にその元凶がいるってのに、シッポ巻いて逃げ出せっかよ!!」
 エイジは怒声を上げ、モニター上のゼラバイアを睨み付けた。
「…………わかった。戦闘を続行する」
 斗牙が前方を見据えて言った。
「「斗牙!?」」
 琉菜とリィルは、同時に驚愕の声を上げる。
「でも……臨界ポイントまでに倒せないようなら撤退する。動けなければ戦えないからね」
 斗牙は戦闘時の顔で、しかしいつもの優しい口調で告げた。
「ああ、臨界ポイントまでにカタをつける! エィナ、大技はあと何回使える?」
「は、はい! 残りの重力子ポイントでは、プレッシャーパンチとクレッセントを1回ずつ。それ以上はギリギリ動けるかどうかです!」
「上等!! みんな聞け! オレに考えがある」
 エイジは思いついた作戦を話す。その言葉に、全員が緊張の面持ちでエイジを見た。
「上手くいくかしら……」
 難しい顔でミヅキが呟く。
「大丈夫だよ。僕はエイジを信じる。シャドウ・コクピット、レフトドリラー・コクピット、
グラヴィティ・クレッセント、プレッシャー・パンチ、スタンバイ!」
「「了解!」」
 リィルと琉菜は同時にコンソールを操作し、発射準備を開始した。
 グラヴィオンの胸部分、Gシャドウの翼が下方にスライドし、それを取り外す。グラヴィオンの右手に巨大な三日月型の刃、
グラヴィティ・クレッセントが握られた。
 左手でそれをなぞり、重力子エネルギーをチャージすると、刃全体が薄紫の光に輝く。
「グラヴィティ・クレッセント!」
「シュート!!」
 グラヴィオンは右手を振りかぶり、ゼラバイア目掛けてクレッセントを投擲した。そして素早く体勢を立て直し、左手を前方に突き出す。
「グラヴィトン・プレッシャー!」
「パァーーーーーーンチ!!」
 クレッセントに続き、琉菜を乗せたプレッシャーパンチが発射された。
 敵はデストロイヤー級からソルジャー級に分裂して攻撃を回避、その後コアを中心に再び合体する。クレッセントを見せ技にし、
時間差で放ったプレッシャーパンチでとどめを刺す。それがエイジの作戦であった。
 思惑通り、ゼラバイアは分裂してクレッセントを回避、再合体を開始する。その合体のわずかな隙を狙い、プレッシャーパンチがゼラバイアの巨体を抉った……かに見えた。
「くっ!」
 斗牙は表情を曇らせ、ゼラバイアを見つめた。再びゼラバイアが合体を開始する。わずかに敵の分裂の方が早かったのだ。作戦は失敗だった。
 しかし、エイジの瞳から闘志は失われていない。
「琉菜っ!!」
「わかってる!!」
琉菜は操縦桿を握り、プレッシャーパンチを操作した。本来、高速で敵にぶつけるパーツに人を乗せるのは危険な事である。
グランディーヴァコクピット内に張り巡らされた重力フィールドが無ければ、着弾の衝撃で搭乗者の体も潰れるであろう。
 その危険を冒してまで有人にするメリット。それはパイロットがリアルタイムでプレッシャーパンチの軌道を操れる事であった。
 琉菜が操る鋼鉄の弾丸は、まっすぐ『それ』に向かって飛んでいた。
プレッシャーパンチの前方にある物。それは目標を失い、未だ宙を舞っている『グラヴィティ・クレッセント』であった。



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