Tough Boy!
Tough boy!


 プレッシャーパンチの拳がカッと開き、空中でクレッセントを掴む。同時にグラヴィオンからパンチ回収用のビームワイヤーが伸び、プレッシャーパンチと接続された。
だが斗牙はパンチを回収せず、あたかも鞭を振るうように腕を振り上げた。その動きに合わせ、ワイヤーを波打たせながらパンチが上昇する。
そして、斗牙は力いっぱい腕を振り下ろした。それと同時に、プレッシャーパンチのバーニアに、再び火が灯る。
凄まじい急加速で、クレッセントを握ったパンチが合体途中のゼラバイアに突撃した。
「プレッシャー・クレッセント!!」
「シュート!!」
琉菜とリィルはプレッシャーパンチの加速を上乗せし、クレッセントを放った。空気摩擦で表面を赤熱化させたクレッセントがゼラバイアを両断し、その衝撃で大地を抉った。
 瞬間、大爆発が巻き起こった。

「やったか!?」
 レイヴンが緊張の面持ちでモニターを見つめながら言う。
「あぁ!?」
 しかし、テセラが絶望感を漂わせた叫びを上げた。
「ゼ、ゼラバイア反応、消滅していません! コアは無傷です!!」
「重力子臨界ポイントまで0127、稼動限界です!!」
「エイジさまぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 マリニアの報告に、チュイルは両目に涙を湛え、『メイド』としてではなく、『女』として悲鳴を上げた。

「そんな……失敗だなんて……」
 琉菜はコクピットの中で脱力しながら、呆然とゼラバイアを見つめた。コアゼラバイアは、凄まじい速度で増殖を始め、その巨体を再構築している。
「斗牙、突っ込め!!」
 エイジの叫びに、斗牙は迷わずグラヴィオンを動かした。さすがに動けないゼラバイアに向かって、巨神の体が宙に舞う。
「グラヴィトン・クラーーーーーーーーッシュ!!」
 グラヴィオン必殺の飛び蹴りがゼラバイアに炸裂する。半分方再構築を終わらせていたゼラバイアの巨体を巨神の右足が貫く。
しかし、コアゼラバイアはその踵からわずか後方に位置していた。最後の一撃も外してしまったのである。
「臨界ポイントまで0053、合神解除されます!!」
 エィナの声に、エイジは無意識にコンソールを操作していた。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 エイジは乱暴にコンソールのボタンを叩く。それは、プレッシャーパンチ発射時の体制固定プログラム起動のボタンであった。
 ふくらはぎ部分から、グラヴィオンの巨体を支える巨大な金属の杭が飛び出した。その杭にも重力子は循環している。そして、杭の射出口の直線上にコアゼラバイアがいた。
 鋼の槍がゼラバイアの体を貫き、完全に粉砕した。コアの破壊と同時に、他のゼラバイアも自壊し始める。
 その瞬間、グラヴィオンの全身から煙が噴き出し、各グランディーヴァの合神ロックが解除された。パーツが外れ、グラヴィオンはグランカイザーの姿に戻ってゆく。
 合神が解けるまさに寸前、グランナイツはゼラバイアの撃退に成功したのであった。
「へっ、ザマぁみやがれ…………」
 エイジは満足気に笑うと、そのまま意識を失った。

 サンジェルマン城の格納庫で、帰還したグランナイツをメイドたちが出迎えた。それ自体はいつもの事だが、今回は様子が違う。皆、一様に心配そうな表情を浮かべていた。
 先頭に立つチュイルは、涙で真っ赤になった瞳で節舷するグランフォートレスを見守っていた。
 司令室には、グランナイツ全員のバイタルデータがリアルタイムでグランディーヴァから送られて来る。戦闘終了と同時に、Gアタッカーから送られるエイジのバイタルデータが、
極端に低い数値を指し示しているのを発見した時、チュイルはその場で昏倒しそうになった。
 実際、テセラが支えてくれなければ、ショックで倒れていただろう。それほど、エイジのバイタルデータは危険な数値を示していた。
 今は何とか気丈に振舞っているが、エイジの姿を見た瞬間、取り乱してしまう予感をチュイルは抱いている。
もしもエイジの身に何かあったら…………。そんな事を考えていると、また涙がこぼれそうになる。泣きたい気持ちを懸命に堪え、小刻みに揺れる肩をそっと誰かが支えた。
それは、チュイルの横に立っていた、看護メイドのディカであった。
「大丈夫よ、チュイル。エイジ様はきっとご無事。どんな大怪我をしていても、看護メイド長の名に賭けて、必ずお救いしてみせるわ」
そう言ってディカは、慈愛の篭った笑みを浮かべてチュイルを慰めた。
「うん。ありがとう、ディカ…………」
 チュイルはニッコリと笑ってみせ、再びグランフォートレスの方を見つめた。
 やがてハッチが開くと、ディカは足早にグランフォートレスに近付いた。
 中からクッキーが現れ、出迎えのメイドたちに声をかけた。
「おおーい、ちょっと手伝ってくれ! それからトリア、急いでコッチに来てくれ! アタッカーのキャノピーが開かない、何とかしてくれ!!」
「わかったー、すぐ行くーっ!」
 大声で答え、トリアもグランフォートレスに向かって走り出した。それに合わせるように、チュイル、テセラ、マリニア、ちびメイド3人が続く。
 グランフォートレスの格納スペースでは、グランナイツたちが心配そうにGアタッカーを見つめていた。
「キャノピーをロックした状態で、エイジが気絶してるみたいなのよ。合神の強制解除の後だから、外部からの操作を受け付けないのよ」
 ミヅキがやって来たトリアに状況を説明する。何も出来ない無力感から、心底辛そうな表情である。
「お任せください。すぐに開けますから!」
 トリアは軽く自分の胸を叩き、すぐに持ち込んだ自分のパソコンをGアタッカーに接続する。
 手馴れた指使いでキーボードを叩くと、キャノピーのロックが外れ、中の空気が漏れる音がした。
「これでヨシ! エイジさま、ご無事ですか…………って、ひょぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 コクピットブロックを覗き込んだトリアが、素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「どうした、トリア?」
「あ、アタッカーのコクピットが……血まみれになってるぅ〜」
 恐ろしい物を見たような表情でトリアはクッキーに報告した。
「ディカ!」
「はい!」
 クッキーとディカは素早くアタッカーに近付く。コクピットブロックを覗き、クッキーは息を呑む。確かにトリアの言う通り、コクピット一面が血まみれになっていた。
 その凄惨さは、同時にエイジの出血量が尋常ではない事を物語っている。
「くっ、やはりあの時、無理をしてでも城にお連れするべきだった。私の……判断ミスだ!」
 クッキーは激しく悔いるように歯噛みした。
「とにかく、医療室に運びます。大丈夫です、絶対にお助けしてみせます!」
 決意を秘めた眼差しでディカは静かに言う。クッキーは小さく頷くと、他のメイドたちと力を合わせてキャリーにエイジを乗せ、早足でそれを押した。
 生気を失ったエイジの顔を見た瞬間、チュイルは頭の中が真っ白になり、そのまま気を失った。

 手術自体は1時間ほどで終了した。そのタフさが幸いして、エイジは一命を取り留めた。
 しかし、エイジが目を覚ますまでは安心出来ない。そんな思いから、誰一人医療室の前から動けなかった。
「かなりの重態ですので、目を覚まされるには時間がかかるでしょう」
 ディカはそう全員に説明した。だが、エイジはすぐに目を覚ました。とは言え、ほぼ半日昏睡状態ではあったのだが。
 それでも、皆エイジが目を覚ました事を喜んだ。反面、タフだとは思っていたが、そのあまりにも常識外れの体力に、琉菜やミヅキは返って呆れてしまった。
「まったく、どれだけタフなのよ? そこまで行ったら、もう人間レベルじゃないわね」
 琉菜は軽口を叩きながらエイジを見た。こんな事を言ってはいるが、目を覚ますまでリィルやチュイルと一緒に、ほとんど尽きっきりで看病していた。
「うるせぇ、あんまり騒がしいから目が覚めたんだよ」
 エイジは憮然として琉菜から目を逸らす。大勢の人間に心配をかけた事は理解しているので、妙に気まずい思いをしていた。
「大体、大袈裟なんだよ、みんな。どうって事ねぇって言ってるだろ」
 バツの悪い思いで憎まれ口を叩くエイジを、ディカが冷ややかに見つめる。
「そんな事はありません。額の傷は7針縫いました。それから、肋骨の2本にヒビ、1本が完全に折れています。出血もかなりの物で、ハッキリ言ってしまえば、
帰還が後1分遅れていたら、エイジ様はお亡くなりになっていたかもしれません。折れた肋骨が肺に刺さる危険性もありましたし、そんな体で戦闘されるなんて自殺行為です。
今後は完全に怪我が治るまで、出撃も訓練も禁止させていただきます。すでにサンドマン様の許可も得ていますから」
有無を言わさぬディカの口調に、エイジは反論出来ず、ベッドに身を預けた。
「まあ、明日には自室に戻られても大丈夫でしょうが、今夜一晩はここでお休みになってください。いいですね?」
「判ったよ……」
「結構です。それでは皆さん、今日はお引取りください」
 ディカの言葉に、グランナイツとメイドたちは医療室を出て行こうとする。その背中にエイジは声をかけた。
「みんな……心配かけてスマン。それから、琉菜、リィル、チュイル……看病してくれてサンキューな」
「エイジさん……早く元気になってください」
「ぱよ! エイジさま、何かあったらいつでも行ってくださいね」
「エイジ……その……お大事に……」
 三者三様の言葉だが、全員がエイジの身を案じているのがヒシヒシと伝わってくる。
「それでは、私もサンドマン様にエイジ様のご容態の報告に行ってまいります。エイジ様、くれぐれもご無理をなさらないでください」
 皆が部屋を出た後、ディカもまた医療室から出て行った。
 一人室内に取り残されたエイジは、一つ大きなため息をつくと、静かに目を閉じた。強がりを言ってみたものの、かなりの量を出血した為、体中を何とも言えない倦怠感が包んでいた。
(アヤカ…………)
エイジの具合が悪い時、いつも姉のアヤカが看病してくれていた。だが、そのアヤカは行方不明である。
(そういえば、琉菜たちに看病してもらってた時、何かアヤカが傍にいたみたいだったな……)
 昏睡状態にありながらも、エイジはボンヤリと自分が誰かに看病してもらっているのを感じていた。傍にいた『誰か』が自分の髪を優しく撫でていた感覚がまだ残っている。
それは幼少の頃、熱を出したエイジを看病しながら、そっと髪を撫でてくれたアヤカの手と同じような感覚であった。
(あれは誰だったんだ? 琉菜……いや、まさかな。チュイルか……それとも、やっぱりリィルかな? あんな事してくれそうなのは、リィルぐらいだもんな……。でも…………)
 そんな事をつらつらと考えているうちに、エイジはそのまま眠りについた。



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