Tough Boy!
Tough boy!




 翌日。エイジは早々に自室へ戻った。やはり医療室ではイマイチ落ち着かない。
 痛む脇腹を庇いつつも部屋に戻って来たエイジは、とりあえずベッドに横になる。そしてボンヤリと天井を見上げた。ハッキリ言って、する事が無い。
 普段なら訓練の時間だが、さすがに参加出来るほどには体も動かない。
「しゃーねぇ、もう一寝入りするか」
 エイジは目を閉じ、睡眠に入ろうと努力してみた。しかし、今しがた起きたばかりで、再び眠れる訳も無かった。
 それでも、しばらくは何とか眠ろうと悪戦苦闘していたが、やがて諦めて目を開いた。
「ああ、クソ。まいったぜ……」
 エイジは所在無さげに部屋を見回す。当然ながら、時間を潰せそうな物など何も無い。
 その時、ドアがノックされた・
「失礼しまーす」
 幼いが礼儀正しい声。ドアが開くと、予想通りアーニャ、ブリギッタ、セシルのちびメイド3人が入って来た。
「エイジさま、お着がえをお持ちしました」
 アーニャが手に持った服をエイジに差し出す。
 嫌な予感を感じつつ、それを受け取り広げてみると、案の定フリルの付いた王子様風のシャツであった。
「あのな、アーニャ。一度サンドマンに言っといてくれ。オレにこういうのは似合わないから、カンベンしてくれってな」
「そんな事ありません! サンドマンさまもお嘆きなんですよ。『どうしてエイジさまは自分の選んだ服を着てくれないのか』って!」
 アーニャの剣幕に、エイジは一瞬言葉に詰まる。そして、服の事で思い悩むサンドマンの姿を想像してみた。しかし……。
(ダメだ、想像出来ねぇ……)
 エイジは思考を中断し、ちびメイドたちに向き直る。
「とにかく! 着替えならあるから、それは持って帰ってくれ」
「そうですか。でしたら……お着がえをお手伝いします!」
 そう言ってちびメイドたちは、一斉にエイジの服を脱がしにかかった。
「だぁ〜、待て! 自分で出来る!!」
「もう〜ケガしてる時ぐらい、おとなしくしなよ〜」
 不平を言うブリギッタの横で、セシルが黙々とエイジから衣服を剥ぎ取ってゆく。相変わらず、妙に手際が良い。
「よせ! やめろって! やめ……痛ててててっ!」
 エイジは折れた肋骨の辺りを押さえて悲鳴を上げた。痛みに顔を顰めるエイジの姿に、さすがのちびメイドたちも手を止める。
「だ、大丈夫、エイジさま!?」
「ごめんなさい、エイジさま!」
「……………………………!?」
 ブリギッタとアーニャ、そして無言ではあったがセシルは、心配そうな表情でエイジを見る。
「ケガを……してるからこそ……一人で着替えた方が……安全なんだよ……」
 エイジは涙目になりながら、息も絶え絶えに訴える。
「…………わかりました」
 ちびメイドたちは少ししょんぼりとして、エイジから離れた。いつも生意気な口をきくブリギッタまでがシュンとしているのを見て、
エイジは何となく罪悪感を覚える。彼女たちなりに、エイジの為に良かれと思ってやっている事なのは判っている。
「ああ、そんな顔するな。別に怒ってるワケじゃないんだ。また何かあったら頼む。な?」
 エイジは優しい笑みを浮かべ、ブリギッタの頭を撫でた。
「ホラ、元気だせよ。そんな顔は似合わねぇぞ」
 言いながら、アーニャ、セシルの頭も順番に撫でる。
 ブリギッタは照れたように、アーニャは嬉しそうに、セシルははにかんだ笑みを浮かべた。
「よぉし、イイ笑顔だ」
 満足そうに頷くエイジに、セシルはおずおずとリボンの付いたかわいらしい包みを差し出した。
「エイジさま……どうぞ……」
「ああ! セシルずるい〜。エイジさま、アタシのもどうぞ!」
「エイジさま、これはわたしからです」
 ブリギッタとアーニャも続けてエイジに包みを手渡す。
「何だ、コレ?」
 エイジは不思議そうに3つの包みを見つめた。
「チョコレートですよ」
「チョコレート?」
「やだなぁ、エイジさま。今日はヴァレンタインデーじゃない」
 あきれたようなブリギッタの言葉に、エイジは今日が2月14日である事に気付いた。
「ああ、そうか。ヴァレンタインか……」
「そうだよ。手作りなんだから、ちゃんと食べてよ!」
「わたしも……手作り……」
「いちおう、わたしも手作りです」
「へえ……。ありがとな。ちゃんと食わせてもらうよ」
 エイジはもう一度3人の頭を撫でた。
 皆、少しくすぐったいような、それでいて恥ずかしげな笑みを浮かべてエイジを見つめた。
「それではエイジさま、失礼します」
 3人はペコリと頭を下げ、部屋を退出した。
 再び一人になったエイジは手渡された包みを見る。
「ヴァレンタインねぇ……」
 朝からチョコレートというのも中々にヘビーな事もあり、ひとまず包みを脇のテーブルに置いて、エイジはベッドに横たわった。
そしてヴァレンタインについて物思いに耽る。
 中学・高校とそれなりにモテた為、エイジにとってヴァレンタインはそれほど縁遠いイベントではなかった。しかし、サンジェルマン城に来て、
半ば世間から隔離されたような生活を送っているせいか、今日がヴァレンタインデーだという事を、すっかり忘れていた。
(そういや、何だかんだ言いながら、毎年ユミがチョコレートくれてたっけ……)
 エイジは自分の家の隣に住んでいる、世話焼きの幼馴染を思い描いた。
 その時。ドアがノックされ、エイジは思考を中断した。
「エイジ様、よろしいでしょうか?」
 ドアの向こうから、ハスキーだがよく通る声が聞こえてくる。
「クッキーか? 開いてるぜ」
「失礼します」
 ドアを開け、優雅に一礼して入ってきたのは、やはりクッキーであった。
「お加減はいかがですか?」
「退屈で死にそうだ」
「あんな無茶をしたのですから、自業自得ですわ」
 そう言ってクッキーはクスクスと笑う。
 まったくもってその通りの為、エイジは何も言えなかった。
「で、何か用か?」
 憮然とした表情でエイジは問う。生活班のメイドたちならいざ知らず、警備班のメイドが来る事などそうはない。
「ああ、ハイ。エイジ様にお届け物です」
 クッキーは淡いピンク色の包装紙に包まれ、リボンのかかった小さな箱を手渡した。
「こちらユミ様から、ヴァレンタインのチョコレートです」
「ユミから? アイツ、わざわざココまで持って来たのかよ?」
「いえ、ユミ様から連絡をいただいたので、こちらから伺ってお預かりしてきました」
 そう言ってクッキーはニッコリとほほ笑んだ。
「そうそう、メッセージもお預かりしています。『あくまで義理チョコだから、変な期待はしないでほしい』との事です」
「いちいち言わなくても判ってるっつうの」
 エイジはまたも憮然とした表情でベッドに横たわる。
「まあまあ、ユミ様も照れていらっしゃるんですよ」
 クッキーは愉快そうに目を細め、新たな包みを差し出した。
「こちらは警備班全員からです。一まとめにするのも失礼かとは思いましたが、一人一個だと逆に食べきれないと思いまして。
警備メイドたちの中で、エイジ様のファンは多いですからね」
「そ、そうなのか?」
「ハイ」
 面と向かって『ファンが多い』などと言われて、エイジは思わず赤面した。
「そういう事ですので、警備メイドを見かけたら一言お礼でも言ってあげてください」
「あ、ああ。そうさせてもらうよ」
「フフ、それでは私はそろそろ失礼させていただきます」
 クッキーは居住まいを正し、一礼すると部屋を出て行った。

 その後、大勢のメイドが代わるがわる見舞いに訪れた為、エイジはそれほど退屈せずに済んだ。
 顔も名前も知らないメイドが大半であったが、一様に美人揃いなので、エイジは充分に楽しい思いが出来た。
 もっとも、エィナと一緒にやって来たトリアには、Gアタッカーのコクピットを血塗れにした事、
その後始末に苦労した事に対する愚痴を散々に聞かされはしたのだが。

 そうこうしている内に時間も過ぎ、本来なら午後の訓練が終わる頃、チュイル、テセラ、マリニアの3人が見舞いにやって来た。
「エイジ様、お加減はいかがですか?」
 テセラが丁寧に問う。
「ちょっと退屈してる以外は悪くねぇよ。こんなにノンビリ出来るのも久しぶりだからな」
「お元気そうで何よりですわ」
 マリニアがニッコリとほほ笑む。
「あ、あの、エイジさま……本当に大丈夫なんですか……?」
 おずおずと尋ねるチュイルに、エイジは思わず苦笑した。
「大丈夫だって。これぐらいすぐに直らぁ。それよりも、チュイルには改めて何か御お礼しないとな」
「そ、そんな、お礼だなんて!」
 チュイルは慌てて両手をパタパタと振った。


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