Tough Boy!
Tough boy!




「あら、良かったじゃないチュイル。ホワイトデーのお返しと一緒に、何かプレゼントしていただいたら?」
 マリニアはクスクス笑いながら、エイジにリボンの付いた包みを手渡した。
「こちら、私からヴァレンタインのチョコレートですわ。私はホワイトデーのお返しだけで結構ですよ」
「マリニア! お仕えする方にお返しのお願いなど、してはいけません!」
 にこやかに言うマリニアをテセラがたしなめた。
「あら? でも、お返しをなさらないようなら、それはそれでテセラは怒るでしょう?」
「怒るだなんて……。ただ、グランナイツとして地球の平和の為に戦っていらっしゃるお方が、
どのような物であれ、女性のプレゼントに対して何もなさらないようでは、殿方としていかがなものかと思うだけで……」
「ああ、判ってるって。ちゃんとお返しはさせてもらうよ。それが男の甲斐性ってモンだ」
 エイジは苦笑いでテセラを見る。
「え? あ、そんな。エイジ様にお返ししていただくなんて……」
 慌てるテセラの言葉を、エイジは手を上げて制した。
「いいんだよ。テセラたちには普段から色々と世話になってるからな。せめてもの恩返しだ」
「恩返しだなんて……私たちはメイドとして、当然の事をしているだけでして……」
「テセラ、それ以上固辞するのは、かえって失礼じゃない? それに、あなたまだエイジ様にチョコを差し上げてないわよ」
「あ! も、申し訳ありません! ど、どうぞ!」
 テセラはあたふたとチョコの包みを差し出した。
「そういえば、チュイルもまだお渡ししてないんじゃないの?」
「あ、えっと……その、ど、どうぞ!」
 マリニアの指摘に、チュイルも慌てて包みを差し出す。
「あ、ああ。ありがとうな、二人とも」
「受け取っていただけて良かったじゃないチュイル。手作りした甲斐があったわね」
「も、もう、マリニア!」
 チュイルは真っ赤になってマリニアを睨むが、当のマリニアは相変わらず優しげな眼差しでクスクス笑っていた。
「へえ、手作りなのか。わざわざ悪いな。ちゃんと味わって食わせてもらうよ」
「いえ……そんな……」
 チュイルはモジモジと恥ずかしげに俯く。
「さて、と。それでは私とテセラはまだ仕事が残っていますので失礼させていただきます。
チュイル、あなたは休憩中だし、少しの間エイジ様のお相手をしてさしあげたら?」
「ぱよ!? その……わたし……」
「あ〜、迷惑じゃなけりゃ、少し話相手になってくれると助かるんだけどな」
「そんな、迷惑だなんて……。わ、わたしで良かったら……」
 ますますモジモジとするチュイルを優しく見つめるマリニアと、何やら複雑な表情を浮かべているテセラが揃って立ち上がった。
「それではエイジ様、失礼いたします」
 深々と頭を下げると、マリニアはチュイルの耳元に顔を寄せ、そっとささやいた。
「チュイル、頑張ってね」
「あ……う、うん……」
 チュイルは部屋を出て行く二人を心細げに見つめる。
 そして、完全に室内に二人きりになった事で、少し恥ずかしげに俯いていたが、やがて覚悟を決めたようにチュイルはエイジと向き合った。

 それから色々と雑談をしていたエイジは、ふと思い出したように言った。
「そういえば、もう結構前になるけど、夜中にチュイルの部屋に行った事あったろ? あの時は驚かしちまって悪かったな」
 エイジの言葉に、チュイルは申し訳ないという風に首を振る。
「いえ、わたしの方こそ、あの時はすいません。エイジさまにヒドイ事しちゃいました」
「かまわねぇよ。いくらアヤカの話が聞きたかったからって、あんな夜這いみたいなマネしたオレが悪い」
 エイジは苦笑いを浮かべて頭を掻いた。
「アヤカさま……早く見つかるといいですね」
「そうだな……」
 しんみりとした様子を浮かべるエイジに、チュイルはわざとおどけた調子で明るい声を出した。
「ぱよっ! エイジさまならきっとアヤカさまを見つける事が出来るですぅ! わたしも力になります」
 チュイルはそっとエイジの手に自分の手を重ねた。
「わたし……エイジさまの為ならどんな事でも出来ます。テセラと違って、わたしなんかじゃ頼りにならないと思われるかもしれませんけど……」
「そ、そんな事ねぇよ。サンキューな」
 チュイルの手の柔らかな感触に、エイジはどぎまぎしながら答える。
「エイジさま、その……わたし……わたし……」
 チュイルはエイジの手をさらに強く握り、ぐっと身を乗り出した。
「わたし……エイジさまが……」
 吐息が感じられるほどに二人の顔が近付く。チュイルの潤んだ瞳がまっすぐエイジを見つめた。
「エイジさまが……好……」
 その時。突然ノックの音が響き、チュイルはビクリと肩をすくめた。
 そこでハッと我に返ったように、チュイルは慌ててエイジから離れた。
「も、も、も、申し訳ありません、エイジさま!」
「あ、ああ、いや、その……」
 エイジは顔を真っ赤にして、言葉を紡ごうとするが、上手く口が回らない。
「そ、それでは、そろそろ失礼いたします!」
 チュイルは物凄い勢いで頭を下げると急いでドアを開いた。
 扉の向こうには、両手で何かの箱を持っているリィルの姿があった。
「リィルさま……」
 チュイルは気まずそうにリィルを見つめる。
「チュイル……」
 リィルもまた驚いたような表情でチュイルを見つめた。
 チュイルは適当な挨拶をかわし、ペコリと頭を下げるとそそくさと逃げるように去って行った。
 リィルはしばらくチュイルの去って行った方を見つめていたが、やがて神妙な面持ちで部屋に入ってきた。
 ベッド脇の、今しがたまでチュイルが座っていた椅子に腰を下ろし、箱を膝の上に置くと、リィルは様子を窺うようにエイジを見た。
「ケガの具合は……どうですか?」
「ああ、リィルが手当てしてくれたおかげで、もう平気だよ」
 そう言ってエイジは朗らかに笑うが、リィルは悲しそうな、それでいて怒ったような表情を浮かべた。
「平気な訳ないじゃないですか! あんな大怪我だったんですよ。私……手当てをしている時、ずっと不安でした。
このままエイジさんが目を覚まさなかったらどうしようって……」
 リィルはそっと唇を噛み、顔を伏せた。
「そ、そうか……ゴメンな……」
 さすがに神妙は顔付きになるエイジを、リィルは切なげに見つめた。
「エイジさんの気持ちは分かるつもりです。私だって罪の無い人たちを襲ったゼラバイアは許せない。でも……それでエイジさんが死んでしまったら……」
 肩を震わせながら語るリィルに、エイジはわずかに罪悪感を覚える。よもや、こんなにもリィルが自分の事を心配してくれていたとは、夢にも思わなかった。
「随分……心配かけちまったみたいだな……」
 エイジの言葉にリィルは顔を上げ、ジッとエイジを見つめた。
「もう……心配させないでください……」
 真摯なリィルの眼差しに、エイジは思わず目を逸らす。
「ゴメンな、リィル……」
 そう言ってエイジは、少し俯いてから、意を決したようにリィルを見た。
「もう誰にも心配かけるようなマネはしない。だから、そんな泣きそうな顔すんなって」
「本当……ですか?」
「ああ、約束する。まあ、また色々やらかして、迷惑はかけるかもしんねぇけどな」
 そう言ってニッコリ笑うエイジを、リィルはきょとんとして見つめる。
「それでレイヴンに小言食らうワケだ『勝手な真似をするなといつも言っているだろう! 二度とそんな気を起こさないように、
訓練のメニューを増やしてやる!』なんてな」
 レイヴンがいかにも言いそうなセリフを、わざわざ口調を真似て言うエイジの姿に、リィルは思わず吹き出してしまった。
「どうだ、オレの物真似。結構似てるだろ?」
「似てませんよ……」
 クスクス笑いながらリィルは言う。エイジはわざとらしく顔を顰め、考え込むフリをした。
「そうか? じゃあ、これはどうだ。サンドマンの物真似だ。『グランナイツの諸君、合神せよ!』『フッ……美しい……』」
 わざとらしいまでに空々しいほど、キザなポーズを決めるエイジに、リィルは口元を押さえてさらに笑う。
「だから、似てません」
「そうかなぁ? オレは自信あるんだけどなぁ。じゃあ、次はリィルの物真似だ」
「わ、私ですか!?」
「おう。ん゛! あ゛〜あ゛〜よし、発声練習完了。じゃあ、行くぜ。特別に斗牙の物真似付きだ『グラヴィティ・クレッセント!』」『しゅーとぉ!』」
 気持ち悪い裏声を上げたエイジに、リィルは怒った表情を浮かべて睨む。
「私、そんな喋り方しません!」
 強い口調で言うが、口元が笑みで綻んでいる。やがてリィルは再びクスクスと愉快そうに笑った。
「もう、エイジさんったら……」
「…………やっと笑ったな」
「え…………?」
 リィルは優しげな笑みを浮かべるエイジを見つめた。
「リィルは出来るだけ笑顔でいた方がいいよ。記憶が無くて不安もあるだろうけど、オレたちがリィルの家族代わりになる。いつでもリィルが笑顔でいられるように……。
初めて会った時みたいに、寂しそうな顔をしているリィルより、明るく笑ってるリィルの方が、オレは好きだぜ」
「す、好き!?」
 驚愕の表情を浮かべ、リィルは頬を赤く染める。
「あ! ああ、いや、その……へ、ヘンな意味じゃないんだ。その……」
 エイジもまた真っ赤になりながら、慌ててフォローを入れようとするが、軽いパニックになって言葉が出ない。
「そ、そう! 『家族』として好きって言うか、その……とにかく、おかしな意味じゃないから……」
 何とか言葉を繕うエイジに、リィルは真っ赤になった顔を俯け、自分だけに聞こえるぐらいの小声でそっと囁いた。


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