天使ノROCK
天使ノROCK
5
コンビニで買い物中の又衛門。外でそれを待っている良子。
そこへサングラスにマスク、頬かむりをした助六と由香里が近付く。
助六 「ヘイ、そこのラッキーガール!」
良子 「は?」
驚いたように二人を見る良子、何故かその正体に気付いていない。
助六 「現在、新商品のサンプルを配布中です! コレをどうぞ!」
助六に促され、ドリンク剤の瓶を取り出す由香里。
助六 「このステキドリンクを飲めば、お肌もツルツル、ビューティフルなレディになれる事うけあい!
ステキな彼氏も出来るかもよ?」
良子 「え、本当? そんなに良い物くれるの?」
由香里「はぁい、サンプルですのでご遠慮なく」
良子 「わ〜い、ありがとうございま〜す」
助六 「ささ、冷たいうちにどうぞ」
良子 「いっただっきま〜す」
ノーテンキにドリンク剤を飲む良子。
コンビニから缶ジュースを持って又衛門が出て来る。
又衛門「お待たせ、午後ティーで良いよね? って……わぁぁぁぁぁぁっ!?」
死んだように(て云うか死んでる)横たわる良子を見つけ、慌てて駆け寄る又衛門。
又衛門「う、うわぁぁぁ! し、死んでるぅぅぅぅぅぅっ!」
軽くパニックになる又衛門、その様子を満足気に見守る由香里と助六。
二人の気配を感じ、そちらをキッと睨む又衛門。二人は慌てて逃げる。
又衛門「エンジェルヒーーーーリング!」
倒れている良子に手をかざす又衛門。
良子 「お、おばあちゃん!?」
ガバリと身を起こす良子。慌てて周りを見回す。
良子 「あ、あれ? わたしどこかの川原にいたのに……。そこで死んだおばあちゃんが手を振ってて……」
又衛門「また古典的な臨死体験を……」
良子 「え? わたし、どうなったの?」
又衛門「毒を盛られたんだよ」
手に持った瓶をかざす又衛門
又衛門「まさか、ライバルを蹴落とすのに、毒殺しようとするとは……」
良子 「そっか、毒殺か……。わたし、ちょっと甘かったみたい。幼馴染みだから、まだ遠慮してたんだと思う。
ほんの半年ほど入院してもらおうと思ってただけなんだけど、どうやら、考えを改める必要があるようね」
又衛門「まあ、どっちもどっちなんだけど、その通りだな。じゃあ、ここからは何でもアリって事で」
良子 「やっちゃいましょう!」
又衛門「よっしゃ、じゃあ、まずは……うわっ!?」
勢いこんで振り返った又衛門、すぐ背後にマスクをした助六がいるのに気付き、驚く
又衛門「先輩、何してんですか!」
助六 「先輩? 何の事だね。私は通りすがりの通り魔ですが」
又衛門「モロバレだっつうの! って、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
良子の様子を伺おうとした又衛門、またも倒れている良子の姿が目に入る。
その傍らには、同じくマスクにサングラスの由香里が、ハンマーを持って立っている。
由香里「ホッホッホッ、油断大敵〜」
助六 「よっしゃ、撤収だ!」
助六と由香里、二人揃ってダッシュで逃げる。
又衛門、あっけにとられて、それを呆然と見送る。
助六 「又衛門、ヴァーリトゥードでオレに勝てると思うなよ〜〜〜〜」
響いてくる声にハッと我に返る又衛門。良子の傍に近付き、再び治療する。
良子 「おじいちゃん!? 川の向こうに死んだおじいちゃんが!」
又衛門「あ・の・ヤ・ロ〜〜〜〜〜〜」
6
様々な策略と直接行動で、相手を陥れようとする面々。
途中何度も死にながらも、戦いは続く。
ナレーション「こうして、アタマの悪い事この上ない、恋人争奪戦は、天使二人の暴走もあり、どんどんエスカレートしていくのであった」
良子 「ポチ!? 2年前に死んだ、ミドリガメのポチが!」
何度目かの臨死体験から立ち直り、ガバリと身を起こす良子。
傍らでは、疲れ果てた又衛門が肩で息をしている。
すぐ近くでは、こちらも疲れ果てた助六と由香里がグッタリしていた。
助六 「くそ、こうまで手強いとは……」
由香里「何かわたし、どうでもよくなってきた……」
助六 「弱気になるな! とは言え、このままじゃジリ貧か。オイ、又衛門!」
又衛門「何スか?」
助六 「このままじゃあラチがあかねぇ。オレたちの流儀に則って、コイツでケリ着けるってのはどうよ?」
そう言って、握り拳を見せる助六。
又衛門「いいですけど……後悔しますよ?」
助六 「ハっ、ぬかせ!」
立ち上がって睨み合う助六と又衛門。
由香里「ちょ、ちょっと、何するつもり?」
助六 「オレたち天使はな、争い事で、どうしても決着がつかない時、拳でケリをつけるのが流儀なんだよ」
由香里「何でそんなヤンキーか格闘家みたいな流儀なのよ」
助六 「いくぜ、又衛門!」
又衛門「おうよ、来い!」
今にも殴り合いをはじめそうに見えた助六と又衛門。突然アッチ向いてホイを始める。
良子 「うわ……地味…………」
由香里「コブシでって、そういう意味かい……」
二人の天使を尻目に、何やら話し合う由香里と良子。
結論が出たようで、未だ決着のつかない天使たちに向かって歩を進める。
由香里「は〜い、ストップ!」
良子 「二人とも、もういいよ」
助六 「オイオイ、邪魔するなよ!」
又衛門「コレは天使としてのプライドを賭けた勝負なんだ!」
由香里「だから、もういいって言ってるでしょ?」
良子 「わたしたち、思い切ってあの人に告白する事にしたの」
助六 「なぬ?」
又衛門「なんですと?」
由香里「なんか、アンタら見てたらバカバカしくなってきてさ」
良子 「自分の事は自分で面倒見ようって思ったの」
晴れ晴れとした笑顔を浮かべる二人。
対照的に狐につままれたような顔する天使たち。
良子 「あ! あのブラピとベッカム様足して2で割ったような人は!」
由香里「あの人よ!」
良子 「よ〜し、行くよ、由香里!」
由香里「ええ。判ってると思うけど、どっちかがウマくいっても、ウラミっこナシだからね!」
笑顔で駆けて行く二人。
助六 「どう見ても、ヒゲの無いチャック・ノリスだよなぁ……」
又衛門「確かに……」
そんな天使たちの言葉も耳に入らず、男の前で立ち止まる二人
由香里・良子「好きです! わたしと付き合ってください!」
7
公園。
ガックリと肩を落とす由香里と良子。
複雑な表情でそれを見守る天使たち。
助六 「いや、まあ何つうか……とんでもねぇオチだったなぁ」
又衛門「笑い話にもならないよなぁ……」
回想。
告白をして、神妙な表情で返事を待つ二人。
男A 「ゴメン、ボク女の子には興味無いんだ……」
予想外の言葉に、唖然とする一同。
男A 「じゃあ、これから人と会う約束があるから……あ、ゴメン、待った?」
男B 「いや、今来た所さ。さっきの女の子たちは?」
男A 「ん? なんでもないよ」
男B 「オイオイ、浮気なんかしてないだろうな?」
男A 「やだなぁ、ボクが女の子に興味無いの知ってるだろ?」
男B 「ハハ、そうだったな。ゴメンゴメン。お詫びと言っちゃあなんだが、今夜は寝かせないぜ?」
男A 「こんな所で何言ってるのさ、バカ……」
男たちの会話に呆然とする一同。
再び公園。
助六 「まさか、ゲイだったとはなぁ……」
由香里「言わないで。思い出したくないから……」
助六 「まあ、気を落とすな。そんな事だってあるだろうさ……よっと!」
ベンチに腰を掛けていた助六、勢いを付けて立ち上がる。
助六 「んじゃ、そういう事だから、この辺でサヨナラしとくわ」
由香里「え……?」
由香里「オマエさんの恋は終わったんだろ? だったら、キューピッドの出番も終わりさ」
又衛門「そういう事ですね」
良子 「又衛門さん……」
又衛門「私としても納得は出来ないんですが、こういう事だってあるでしょう」
良子 「又衛門さん、色々ありがとう」
又衛門「ハハ、礼を言われるような事はしてませんよ。結局失敗したんですし」
良子 「そんな事ないよ。又衛門さんがいなかったら、わたし、きっと今でも片想いのまま、ウジウジしてたと思うもん」
又衛門「良子さん……。ありがとう、その一言が、何よりの報酬です」
軽い友情物語を展開する良子と又衛門。それを眺めながら、ふと由香里の方を見る助六
気まずそうに目をすらす由香里。クルリと助六に背を向ける。
由香里「わたしだって……一応は感謝してるわよ。その……ありがとう……」
助六 「へ、何とも照れくさいね。まあ、このカリは絶対に返すからよ」
由香里「へ?」
助六 「オマエさんがまた恋をしたら、すぐにでも駆けつけるよ。それで、今度こそ成就させてやる。
(ボソリと)おうよ、何をしてでもな……」
由香里「頼むから、二度と来るな」
助六 「(その言葉を無視して)又衛門! よく頑張ったな」
又衛門「先輩……」
助六 「ここまでヤるとは思わなかった。こりゃ、もう後輩扱いできねぇな」
又衛門「先輩……いや、こちらこそ勉強になりましたよ、さすがです」
助六 「又衛門……」
お互い、ニヤリと笑って右手を差し出す。固い握手を交わす天使たち。
次の瞬間、互いの空いた左拳が火を吹き、相手の顔面を捕らえる。
助六 「なんて言うと思ってんのか、ゴルァッ!」
又衛門「だから、先輩ヅラすんなっつってんだろうが、ボケェっ!」
握手しながら、左手で殴りあう天使たち。それをあきれたように見守る二人。
由香里「……とりあえず、ご飯でも食べに行こっか?」
良子 「……そだね」
殴りあう天使たちを尻目に去って行く二人。
8
街を歩く二人。不意に揃って足を止める。
良子 「いや〜ん、イケメンはっけ〜〜ん!」
由香里「ステキ〜〜〜。窪塚クンとキムタクを足して2で割ったカンジ〜〜」
ハッとお互いの顔を見据える二人。
由香里「とりあえず……抜け駆けはアリの方向で良いわね?」
良子 「恋は早いもの勝ちだからね!」
由香里・良子「…………勝負!」
勢いよく振り向く二人。その由香里の眼前に、爽やかだが胡散臭い笑顔を浮かべた助六が立っていた。
由香里「な、な、な……?」
助六 「ったく、人が殴りあいしてる途中にいなくなりやがって……。
で、あの四十歳ほど若返ったチャールズ・ブロンソンみたいなのが、次の獲物だな」
由香里「あんた、相変わらず目ぇ腐ってんの? って、何でバットなんか持ってんの!」
助六 「何でって、作戦に決まってるじゃねぇか! ホラ、急がないと先越されるぞ」
前方を指差す助六。その先には、何やらアヤシイ扮装をした良子と又衛門がいる。
助六 「それじゃあ、サクッと殺っちゃいますか!」
嬉々としてバットを振り回す助六。脱力してそれを見守る由香里。
由香里「もう、どうでもいいか……」
諦観めいた笑みを浮かべ助六を追う由香里。その手にはハンマーが握られていた。
END
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