天使ノROCK
天使ノROCK




 コンビニで買い物中の又衛門。外でそれを待っている良子。

 そこへサングラスにマスク、頬かむりをした助六と由香里が近付く。

 

助六 「ヘイ、そこのラッキーガール!」



良子 「は?」



 驚いたように二人を見る良子、何故かその正体に気付いていない。



助六 「現在、新商品のサンプルを配布中です! コレをどうぞ!」



 助六に促され、ドリンク剤の瓶を取り出す由香里。



助六 「このステキドリンクを飲めば、お肌もツルツル、ビューティフルなレディになれる事うけあい!

ステキな彼氏も出来るかもよ?」



良子 「え、本当? そんなに良い物くれるの?」



由香里「はぁい、サンプルですのでご遠慮なく」



良子 「わ〜い、ありがとうございま〜す」



助六 「ささ、冷たいうちにどうぞ」



良子 「いっただっきま〜す」



 ノーテンキにドリンク剤を飲む良子。



 コンビニから缶ジュースを持って又衛門が出て来る。



又衛門「お待たせ、午後ティーで良いよね? って……わぁぁぁぁぁぁっ!?」



 死んだように(て云うか死んでる)横たわる良子を見つけ、慌てて駆け寄る又衛門。



又衛門「う、うわぁぁぁ! し、死んでるぅぅぅぅぅぅっ!」



 軽くパニックになる又衛門、その様子を満足気に見守る由香里と助六。

 二人の気配を感じ、そちらをキッと睨む又衛門。二人は慌てて逃げる。



又衛門「エンジェルヒーーーーリング!」



 倒れている良子に手をかざす又衛門。



良子 「お、おばあちゃん!?」



 ガバリと身を起こす良子。慌てて周りを見回す。



良子 「あ、あれ? わたしどこかの川原にいたのに……。そこで死んだおばあちゃんが手を振ってて……」



又衛門「また古典的な臨死体験を……」



良子 「え? わたし、どうなったの?」



又衛門「毒を盛られたんだよ」



 手に持った瓶をかざす又衛門



又衛門「まさか、ライバルを蹴落とすのに、毒殺しようとするとは……」



良子 「そっか、毒殺か……。わたし、ちょっと甘かったみたい。幼馴染みだから、まだ遠慮してたんだと思う。

ほんの半年ほど入院してもらおうと思ってただけなんだけど、どうやら、考えを改める必要があるようね」



又衛門「まあ、どっちもどっちなんだけど、その通りだな。じゃあ、ここからは何でもアリって事で」



良子 「やっちゃいましょう!」



又衛門「よっしゃ、じゃあ、まずは……うわっ!?」



 勢いこんで振り返った又衛門、すぐ背後にマスクをした助六がいるのに気付き、驚く



又衛門「先輩、何してんですか!」



助六 「先輩? 何の事だね。私は通りすがりの通り魔ですが」



又衛門「モロバレだっつうの! って、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」



 良子の様子を伺おうとした又衛門、またも倒れている良子の姿が目に入る。

 その傍らには、同じくマスクにサングラスの由香里が、ハンマーを持って立っている。



由香里「ホッホッホッ、油断大敵〜」



助六 「よっしゃ、撤収だ!」



 助六と由香里、二人揃ってダッシュで逃げる。

 又衛門、あっけにとられて、それを呆然と見送る。



助六 「又衛門、ヴァーリトゥードでオレに勝てると思うなよ〜〜〜〜」



 響いてくる声にハッと我に返る又衛門。良子の傍に近付き、再び治療する。



良子 「おじいちゃん!? 川の向こうに死んだおじいちゃんが!」



又衛門「あ・の・ヤ・ロ〜〜〜〜〜〜」








 様々な策略と直接行動で、相手を陥れようとする面々。

 途中何度も死にながらも、戦いは続く。



ナレーション「こうして、アタマの悪い事この上ない、恋人争奪戦は、天使二人の暴走もあり、どんどんエスカレートしていくのであった」



良子 「ポチ!? 2年前に死んだ、ミドリガメのポチが!」



 何度目かの臨死体験から立ち直り、ガバリと身を起こす良子。

 傍らでは、疲れ果てた又衛門が肩で息をしている。

 すぐ近くでは、こちらも疲れ果てた助六と由香里がグッタリしていた。



助六 「くそ、こうまで手強いとは……」



由香里「何かわたし、どうでもよくなってきた……」



助六 「弱気になるな! とは言え、このままじゃジリ貧か。オイ、又衛門!」



又衛門「何スか?」



助六 「このままじゃあラチがあかねぇ。オレたちの流儀に則って、コイツでケリ着けるってのはどうよ?」



 そう言って、握り拳を見せる助六。



又衛門「いいですけど……後悔しますよ?」



助六 「ハっ、ぬかせ!」



 立ち上がって睨み合う助六と又衛門。



由香里「ちょ、ちょっと、何するつもり?」



助六 「オレたち天使はな、争い事で、どうしても決着がつかない時、拳でケリをつけるのが流儀なんだよ」



由香里「何でそんなヤンキーか格闘家みたいな流儀なのよ」



助六 「いくぜ、又衛門!」



又衛門「おうよ、来い!」



 今にも殴り合いをはじめそうに見えた助六と又衛門。突然アッチ向いてホイを始める。



良子 「うわ……地味…………」



由香里「コブシでって、そういう意味かい……」



 二人の天使を尻目に、何やら話し合う由香里と良子。

 結論が出たようで、未だ決着のつかない天使たちに向かって歩を進める。



由香里「は〜い、ストップ!」



良子 「二人とも、もういいよ」



助六 「オイオイ、邪魔するなよ!」



又衛門「コレは天使としてのプライドを賭けた勝負なんだ!」



由香里「だから、もういいって言ってるでしょ?」



良子 「わたしたち、思い切ってあの人に告白する事にしたの」



助六 「なぬ?」



又衛門「なんですと?」



由香里「なんか、アンタら見てたらバカバカしくなってきてさ」



良子 「自分の事は自分で面倒見ようって思ったの」



 晴れ晴れとした笑顔を浮かべる二人。

 対照的に狐につままれたような顔する天使たち。



良子 「あ! あのブラピとベッカム様足して2で割ったような人は!」



由香里「あの人よ!」



良子 「よ〜し、行くよ、由香里!」



由香里「ええ。判ってると思うけど、どっちかがウマくいっても、ウラミっこナシだからね!」



 笑顔で駆けて行く二人。



助六 「どう見ても、ヒゲの無いチャック・ノリスだよなぁ……」



又衛門「確かに……」



 そんな天使たちの言葉も耳に入らず、男の前で立ち止まる二人



由香里・良子「好きです! わたしと付き合ってください!」








 公園。

ガックリと肩を落とす由香里と良子。

複雑な表情でそれを見守る天使たち。



助六 「いや、まあ何つうか……とんでもねぇオチだったなぁ」



又衛門「笑い話にもならないよなぁ……」



 回想。

 

告白をして、神妙な表情で返事を待つ二人。



男A 「ゴメン、ボク女の子には興味無いんだ……」



予想外の言葉に、唖然とする一同。



男A 「じゃあ、これから人と会う約束があるから……あ、ゴメン、待った?」



男B 「いや、今来た所さ。さっきの女の子たちは?」



男A 「ん? なんでもないよ」



男B 「オイオイ、浮気なんかしてないだろうな?」



男A 「やだなぁ、ボクが女の子に興味無いの知ってるだろ?」



男B 「ハハ、そうだったな。ゴメンゴメン。お詫びと言っちゃあなんだが、今夜は寝かせないぜ?」



男A 「こんな所で何言ってるのさ、バカ……」



 男たちの会話に呆然とする一同。



 再び公園。



助六 「まさか、ゲイだったとはなぁ……」



由香里「言わないで。思い出したくないから……」



助六 「まあ、気を落とすな。そんな事だってあるだろうさ……よっと!」



 ベンチに腰を掛けていた助六、勢いを付けて立ち上がる。



助六 「んじゃ、そういう事だから、この辺でサヨナラしとくわ」



由香里「え……?」



由香里「オマエさんの恋は終わったんだろ? だったら、キューピッドの出番も終わりさ」



又衛門「そういう事ですね」



良子 「又衛門さん……」



又衛門「私としても納得は出来ないんですが、こういう事だってあるでしょう」



良子 「又衛門さん、色々ありがとう」



又衛門「ハハ、礼を言われるような事はしてませんよ。結局失敗したんですし」



良子 「そんな事ないよ。又衛門さんがいなかったら、わたし、きっと今でも片想いのまま、ウジウジしてたと思うもん」



又衛門「良子さん……。ありがとう、その一言が、何よりの報酬です」



 軽い友情物語を展開する良子と又衛門。それを眺めながら、ふと由香里の方を見る助六

 気まずそうに目をすらす由香里。クルリと助六に背を向ける。



由香里「わたしだって……一応は感謝してるわよ。その……ありがとう……」



助六 「へ、何とも照れくさいね。まあ、このカリは絶対に返すからよ」



由香里「へ?」



助六 「オマエさんがまた恋をしたら、すぐにでも駆けつけるよ。それで、今度こそ成就させてやる。

(ボソリと)おうよ、何をしてでもな……」



由香里「頼むから、二度と来るな」



助六 「(その言葉を無視して)又衛門! よく頑張ったな」



又衛門「先輩……」



助六 「ここまでヤるとは思わなかった。こりゃ、もう後輩扱いできねぇな」



又衛門「先輩……いや、こちらこそ勉強になりましたよ、さすがです」



助六 「又衛門……」



 お互い、ニヤリと笑って右手を差し出す。固い握手を交わす天使たち。

 次の瞬間、互いの空いた左拳が火を吹き、相手の顔面を捕らえる。



助六 「なんて言うと思ってんのか、ゴルァッ!」



又衛門「だから、先輩ヅラすんなっつってんだろうが、ボケェっ!」



 握手しながら、左手で殴りあう天使たち。それをあきれたように見守る二人。



由香里「……とりあえず、ご飯でも食べに行こっか?」



良子 「……そだね」



 殴りあう天使たちを尻目に去って行く二人。










街を歩く二人。不意に揃って足を止める。



良子 「いや〜ん、イケメンはっけ〜〜ん!」



由香里「ステキ〜〜〜。窪塚クンとキムタクを足して2で割ったカンジ〜〜」



 ハッとお互いの顔を見据える二人。



由香里「とりあえず……抜け駆けはアリの方向で良いわね?」



良子 「恋は早いもの勝ちだからね!」



由香里・良子「…………勝負!」



 勢いよく振り向く二人。その由香里の眼前に、爽やかだが胡散臭い笑顔を浮かべた助六が立っていた。



由香里「な、な、な……?」



助六 「ったく、人が殴りあいしてる途中にいなくなりやがって……。

で、あの四十歳ほど若返ったチャールズ・ブロンソンみたいなのが、次の獲物だな」



由香里「あんた、相変わらず目ぇ腐ってんの? って、何でバットなんか持ってんの!」



助六 「何でって、作戦に決まってるじゃねぇか! ホラ、急がないと先越されるぞ」



 前方を指差す助六。その先には、何やらアヤシイ扮装をした良子と又衛門がいる。



助六 「それじゃあ、サクッと殺っちゃいますか!」



 嬉々としてバットを振り回す助六。脱力してそれを見守る由香里。



由香里「もう、どうでもいいか……」



 諦観めいた笑みを浮かべ助六を追う由香里。その手にはハンマーが握られていた。



                                           END
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