Flapper Girl!
Flapper Girl!


  チュイルを探しに出た琉菜だったが、冷静に考えてみれば、現在チュイルがどこにいるのか皆目見当が付かなかった。
 戦闘時以外は普通のメイドとして働いているため、広大なサンジェルマン城の中であてどなく彷徨ってみた所で、 出会う確立は極端に小さい物であろう。
(チュイルの部屋で待ってる方が良いかな? でも、いつ戻ってくるか判らないし……。て言うか、アタシなんでこんな事してるんだろう。
別にエイジがモテようが何だろうが全然関係ないじゃない……)
 琉菜は歩を進めながら、先刻のリィルの様子を思い描く。
 エイジの事を好きなのかと聞かれ、恥ずかしげにそれを肯定したリィル。何とも言えない可憐な姿であった。
(あんな姿見せられたら、いかに鈍感なエイジでも、参っちゃうよねぇ……)
 琉菜の脳裏で、儚げな笑みを浮かべてエイジの胸に抱かれるリィルの姿が浮かぶ。
 琉菜は頭をブンブン振って、その妄想を追い払った。
(何だろ? スゴイ嫌な感じ……)
 足を止め、切なげな表情で俯く。
(何か……落ち着かない。何でこんな気持ちになるんだろう?)
 そんな琉菜の思考を、前方からの声が遮った。
「あ、琉菜さまぁ〜」
 鼻にかかった甘ったるい声。琉菜は直感的にそれが誰の声かが判った。
「チュイル……」
「ぱよ? どうかなさいましたかぁ?」
 案の定、琉菜を呼んだのはチュイルだった。
「あ、あのさ、チュイル……ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「聞きたい事ですか? ぱよっ! ちょうど良かったですぅ。わたしも琉菜さまにご相談があったんですぅ!」
 独特の間延びした喋り方でチュイルが言う。
「相談? アタシに?」
「ハイ! 琉菜さまの考えを聞きたいんです。ダメ、ですか?」
「それは……良いんだけど」
「良かったですぅ! じゃあ、あたしの部屋に行きましょう。他の人には、あまり……聞かれたくないんです」
 チュイルはいつもの天真爛漫な笑顔を若干翳らせて、少し俯く。
「あ、うん。じゃあ、行こうか」
「ハイ! ありがとうございますぅ」
 チュイルは眩しい笑顔を浮かべ、琉菜を自室に引っ張って行った。


 いかにもチュイルらしい、可愛い装飾のついた部屋に通され、琉菜はいささか居心地が悪かった。どうにも、こういう所は趣味が合わない。
「琉菜さま、どうぞ〜」
 チュイルはテーブルに紅茶を置き、自分も琉菜の正面に座った。
「それで……わたしに聞きたい事って何ですかぁ?」
 両手でカップを支え、息を吹きかけて紅茶を冷ましながらチュイルが問う。
「え!? いや、その……そ、そうだ、チュイルの相談は何なの? アタシの話はツマンナイ事だから、先にチュイルの相談を片付けちゃいましょう!」
 いざチュイルに会ってみたものの、何をどう聞けば良いのか考えが纏まらない琉菜は、チュイルの話を先に聞く事にした。
「でもぉ……」
「いいから、いいから! さ、話してみて。アタシで力になれれば良いんだけど」
 困ったような表情のチュイルに、琉菜は話を始めるように促した。
「では……。あのぉ、こんな事を聞いては失礼かもしれませんが……」
 チュイルは話の切り出し方を思案するように顔を伏せ、思いつめたように、琉菜を上目遣いに見る。
「琉菜さまは、その……メイドが仕えるべき方をお慕いするのは良くないと思いますかぁ?」
「え……?」
「そ、その……た、例えばですよ! わたしがエイジさまを好きになったりするのは、いけない事なんでしょうか?」
 チュイルの言葉に、琉菜は一瞬二の句が告げなかった。
「チュ、チュイル……。エイジの事……好き、なの?」
「ぱよっ!? い、いえ、ですから、『例えば』ですぅ!! そ、そんな、メイドのわたしがエイジさまを好きになって良いはずが……」
 チュイルは真っ赤になって、モジモジしながら反論する。しかし、口ではどう言おうが、態度を見ればチュイルがエイジに好意を持っているのは明らかであった。
「いや、その……良いんじゃないかなぁ。メイドって言っても人間なんだし、『身分違い』だとかそんなのナンセンスだと思うし……」
 琉菜はとりあえず思った事を言う。
「で、でもテセラはダメだって……。メイドである以上、あちらから求められるのならともかく、そうでなければ、一線を引いてお仕えしないといけないって」
「まあ、テセラはその辺りカタそうだからねぇ……」
 琉菜は紅茶をすすりながら答えた。
「で、でも、誰かを好きになるのって、そういう理屈とは関係無いし、チュイルがその……エイジの事好きなら、別に……良いと思うけど……」
 琉菜は言いながら、何故か語尾が小さくなっていくのを自覚していた。まるで、その言葉を告げたくないかの如く、声がかすれていくのを感じていた。
「い、いえ、ですから、例えばですぅ! わ、わたしがエイジさまを……」
「いや、もういいって。バレバレだし……」
「ぱよ! バレバレですか……」
「うん……」
「…………」
 ショックを受けるチュイルを、呆れたように見つめる琉菜。しばし、沈黙が流れる。
「それにしても、リィルといい、チュイルといい、エイジのドコが良いんだろ……?」
「ぱよ!? リィルさま?」
 俯いていたチュイルがガバリと顔を上げて、琉菜を見つめる。
「琉菜さま! リィルさまがどうしたんですか!?」
「え……何を言って……」
「今、言ってたじゃないですかぁ!」
「え? 声出てた!?」
 琉菜としては、心の中で呟いたつもりだったのだが、声になっていたようである。それをチュイルに聞かれてしまったのだ。
「あの……もしかして……リィルさまも、エイジさまを…………?」
 恐る恐るチュイルが問う。
「え、ええっと……」
 返答に困る琉菜を、チュイルは肯定の意味として受け取った。
「ぱよ〜〜〜〜〜っ! やっぱりぃ。わたしもそんな気がしてたんですぅ。前にエイジさまがお城を出られた時、リィルさまがエイジさまを迎えに行ってましたし……。
ぱよぉ……強力なライバル出現ですぅ……」
 落ち込むチュイルを、琉菜は何ともいえない表情で眺める。
「で、でも、最終的に選ぶのはエイジなワケだし、その……ガンバればいいんじゃないかな?」
 あまりに落ち込んでいる様を見ていられなくなった琉菜は、慰めるように言った。
「でもぉ……わたしがリィルさまに勝てる所なんて、胸の大きさぐらいですし……」
 胸に若干のコンプレックスがある琉菜は、一瞬、笑顔を引きつらせるが、それでも言葉を継ぐ。
「チュイルみたいにフワフワした感じで、胸の大きい子って、男ウケは良いと思うけど……」
 その言葉に、チュイルはピクリと反応する。
「本当にそう思いますかぁ……?」
「ま、まあ、アタシは男じゃないし、絶対とは言えないけど……」
「ぱよ! わかりましたぁ!!」
 チュイルは意を決したように顔を上げた。
「わたし、ガンバッてみます! こうなったら先手必勝ですぅ! もうすぐヴァレンタインだし、『手作り本命チョコでエイジさまのハートをガッチリ鷲掴み大作戦』
決行ですぅ!! よぉ〜し、やりますよぉ〜!」
 おもむろに立ち上がり、小さなガッツポーズで闘志を燃やすチュイル。その背後に、燃え盛る炎が見える気がする。
「そ、そう。ガンバってね……」
 チュイルのテンションに思わず引いてしまう琉菜。そんな琉菜を、チュイルはいつも見せる天真爛漫な笑みで見つめた。
「そういえば、琉菜さまのお話は何なんですかぁ? わたしに聞きたい事があるって……」
「あ、ああ……それなら、もういいの。アタシの用事終わっちゃったから……」
「ぱよ?」
「じゃ、じゃあ、アタシもう行くね。エイジに……気持ちが伝わるといいわね」
「ぱよ、ガッツですぅ!」
「……それじゃあね」
 元気を取り戻したチュイルに暇を告げ、琉菜は部屋を後にした。



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