Flapper Girl!
Flapper Girl!


 翌日。寝不足の状態でキツイ訓練を終え、ようやく一息ついた琉菜は、何やら大きな紙袋を2つずつ抱えた3人のちびメイドを見かけた。
「随分と大きな荷物ね。少し持ってあげるわ」
「あ、いえ、そんな……。ルナさまにそんな事をしていただくワケには……」
 アーニャが固辞しようとするが、琉菜はお構いなしに彼女たちの紙袋を1つずつ手に取った。
「遠慮しないの。いつもお世話になってるんだから、たまには恩返ししないとね」
 そう言って琉菜は紙袋の中を覗き込む。すると、中には大量のチョコレートが入っていた。
「チョコレート……? これって手作りチョコを作る時に使うヤツだよね。こんなに沢山どうするの?」
 素朴な疑問に、何故か頬を赤らめながらブリギッタが答える。
「い、いえ、わたしたちの分だけじゃないんです! 他のメイドさんたちの分もあるし、それに、最初から上手に作れるともかぎらないし……」
 しどろもどろになりながら、賢明に言い訳じみた事を言うブリギッタ。そんな様子をアーニャとセシルが楽しそうに見ている。
「えっと、その、だから……」
「エイジさまにチョコレートあげるんだよね、ブリギッタ?」
「もうすぐヴァレンタインですから……」
 アーニャとセシルの言葉に、琉菜は得心が行った顔になる。
「ああ、そうか。今日はもう10日だもんね。ヴァレンタイン用のチョコレートか……って、今『エイジにあげる』って言わなかった!?」
 予想外の言葉に、琉菜は思わず詰め寄るようにブリギッタに顔を寄せる。
「え、あ、あの……」
 琉菜の追求に、ブリギッタは困ったような顔で左右のアーニャとセシルを見る。
「ブリギッタはエイジさまの事が好きだもんね」
 アーニャはクスクスと笑いながらブリギッタを肘で小突く。
「べ、べ、別にそんな事ないもん! ただ、エイジさまはどうせ義理チョコしかもらえないだろうし、一つぐらいアタシがあげても……」
「やっぱり本命チョコなんだ〜」
「ち、ち、違うったら! 本命チョコはセシルの方よ!!」
「え…………!?」
 アーニャの言葉を真っ赤になって否定しながら、セシルを見る。当のセシルはいきなり話を振られて、当惑した表情を浮かべた。
「前にエイジさまに助けていただいてから、ずっとエイジさまの事を気にしてたじゃない!」
「そ、それは…………」
 真っ赤な顔で言い放つブリギッタに、セシルもまた真っ赤になって口篭る。
 そんな二人を楽しげに見つめながらアーニャが言った。
「まあ、そういう事です。あ、ここまでで結構です。ありがとうございました、ルナさま。ところで、ルナさまは誰かにチョコレートを差し上げないんですか?」
「あ、アタシはそういうの苦手だから……」
 琉菜は3人と一緒に厨房に入り、テーブルの上に紙袋を置きながら答える。
「そうなんですか? 最近、リィルさまがお菓子の作り方を習ってますので、てっきりルナさまも何かお作りになるものと思っていました……」
「リィルが……?」
「はい。チョコレートケーキをお作りになっているようですが」
「そ、そうなんだ。ふぅん、リィルがんばってるんだ……」
 琉菜は極めて自然な風を装って言ったが、内心では、かなりの動揺があった。
「そ、それじゃあ、アタシもう行くわ。ブリギッタにセシル、頑張ってね!」
「あ、ハイ。がんばります!」
「がんばります……」
 深々と礼をする3人に背を向け、琉菜は足早に厨房を出た。
(リィルがケーキを……。きっとエイジにあげる為に作ってるんだろうなぁ……)
 琉菜はケーキ作りに励むリィルの姿を思い描く。
(リィルって頑張り屋さんだし、きっとおいしいケーキを作るんだろうな。エイジの為に……エイジだけに食べてもらう為に……)
 またも胸がズキリと痛む。琉菜には、この痛みの正体が判り始めていた。しかし、それを認めたくなかった。
「そうよ、アタシが好きなのは斗牙だもん。アタシも……斗牙にチョコレートあげよっかなぁ。そうよ、『斗牙』にチョコレートを……」
 自分に言い聞かせるように呟く琉菜の耳に、楽しげな声が聞こえてきた。
「ぱよ、エイジさま助かりますぅ」
「これぐらい軽い軽い!」
 その声にふと我に返った琉菜は、前方にエイジとチュイルが並んで歩いているのに気付いた。
 先刻の自分と同じような状況なのであろう、大きな荷物を抱えたエイジとチュイルがおしゃべりしながら歩いている。
 琉菜は無意識に足を止めていた。そのまま去って行く二人の背中を見つめる。
 胸の痛みが一段と激しくなる。
「琉菜……さん…………?」
 突然背後から声をかけられて、琉菜はビクリと体を震わせた。慌てて振り向くと、目の前にリィルが立っていた。
「リィル…………」
「あの、どうかしたんですか?」
 心配そうな表情で覗き込んでくるリィル。琉菜は何故か目を合わせられなかった。
「べ、別に何でもないよ。それより、リィルはこんな所で何してるの?」
「あ、はい。これからちょっと厨房の方へ……」
「ああ、エイジにあげるケーキを作りに……」
「!? どうして知ってるんですか!?」
 リィルは驚きと照れが入り混じった表情で琉菜を見つめた。
「あ、さっきアーニャに聞いたのよ。大丈夫、エイジにはちゃんとナイショにしとくから」
「…………」
 明るい調子で琉菜は言う。しかし、リィルは耳まで真っ赤にして俯いてしまう。
(ホント、リィルって可愛いなぁ……。エイジをこんなに想って……。何かあげなくても、この姿を見せれば、いくらシスコンのエイジでもイチコロよね…………)
 そう思った瞬間、琉菜の胸に張り裂けそうな痛みが走った。思わず胸に手をやり、2,3歩よろめく。
「琉菜さん!?」
「だ、大丈夫! ちょっと立ち眩みしただけ……」
 琉菜は何とか笑顔を浮かべ、手を伸ばそうとしたリィルを制す。
「本当に大丈夫ですか?」
「ヘーキ、ヘーキ。ホラ、リィル、厨房に行くんでしょ? 美味しいケーキ作って、エイジをびっくりさせちゃいなさい!」
「あ……は、はい。そ、それじゃあ……」
 まだ少し不安げではあったが、リィルは厨房の方へ向かって行った。
 その姿を、手を振りながら笑顔で見送っていた琉菜だが、やがてリィルの姿が見えなくなると、足早にその場を去った。
 早歩きで移動しながら、琉菜の脳裏に様々な情景が浮かび上がった。
 

真っ赤になりながら言い訳するブリギッタ。

 

モジモジとして口篭るセシル。

 

楽しそうに微笑むチュイル。

 

そして、儚げな笑顔ではにかむリィル。

 琉菜は段々と歩速を上げ、ついには廊下を駆け出した。まるで何かから逃げるかの如く。
 何も目に入らない。ただ、無意識に走り続け、気がつけば自室の中に飛び込んでいた。
 大きな音を立ててドアを閉め、そのまま扉にもたれかかる。
「はぁ……はぁ……」
 荒くなった呼吸を整えるように、深呼吸をする琉菜。そして呼吸が整いだすと同時に、ドアにもたれたまま、ズルズルとその場に崩れ落ちる。
 やがて完全に座り込んだ琉菜は、震える手で両膝を抱えて額をつける。その瞳から涙が滲み始めた。
(そうなんだ……アタシ……アタシ……)
 ついに琉菜の心は一つの結論に達した。それは思い到りながらも、懸命に否定し続けた答。
しかし、事ここに至って、それを認めない訳にはいかなかった。
「アタシ……エイジの事が好きなんだ……。なんで? どうしてエイジなの? アタシは……アタシは…………。
今さら遅いよ……リィルとチュイルの気持ちを知っちゃったもん……。でも…………好きなんだから、しょうがないじゃない!!」
 琉菜は心の中に溜まっていた物を吐き出すように叫んだ。そして、何かが壊れたように涙を流し続けた。
「エイジぃ、アタシどうしたら良いの? こんなの……こんなのツライよぉ……。 アタシだってエイジの事好きなのに……エイジ、エイジぃ…………」
 琉菜は何度もエイジの名を呼びながら泣いた。『時が巻き戻れば良い』そんな叶わぬ願いを抱きながら……。



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